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ジッチャンの名にかけて。
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1-1 「戦士誕生」

ロサンゼルス ( アメリカ)

怒りに燃えていた。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・


どこからともなく効果音が聞こえた。



「わしが男塾塾長 江田島平八である!!」



江田島でも平八でもないのに、そう叫んでいた。


水滴がしたたり落ちていくシャワーの首をワシ掴みにして、力任せにひん曲げる。
壁にも八つ当たりすると、残った水が涙のようにパイプを伝い落ちた。
セメントの奥にズシンと鈍い音が響いて、辺りは再び静寂に包まれる。
激しい怒りとともに、全身の血液が沸騰する。






アメリカに来て6日目、わしはシャワー室でマネーベルトを盗られた。


マネーベルトとは、ウデまたは足首に巻くタイプの貴重品袋のことである。
ポピュラーなハラマキタイプの貴重品袋はもちろん持っていたが、
カネは分散させねばと、足首に巻くやつも買って、その中に60ドル入れていた。


盗まれたというか、正確に言うと、置き忘れた物を拾われただけ。
気が付いて慌てて戻っては来たが、既にそれは消えてなくなっていた。
ブレーキとアクセルを間違えて、コンビニに突っ込む年寄りのような、自爆オブ自爆。
犯罪にでも遭った方が、保険も利くしナンボか救われるというものだ。


こういう場面では自分のマヌケぶりに対して怒るのがスジだが、
わしは完全に犯人と、アメリカという国に対して逆恨みの炎を燃やしていた。



「これが・・・これがっ、アメリカに憧れ続けた者への仕打ちか!!」



小学生の時 「アメリカ横断ウルトラクイズ」 が大好きだったわしは、
やがてアメカジを着てアメリカンバイクに乗り、
屋台でアメリカンドッグを見る度に下ネタを思いつくような大人になった。


小さい頃から自分の中では 「外国」 = 「アメリカ」。
純潔を守る乙女のように、「初めてのときはアメリカで」 と心に決めていたのだ。
だから、記念すべき初海外の第1カ国目は、当然のようにアメリカだった。


その自分が、アメリカに丸ごと拒絶されているような錯覚がした。
アイドルを最前列で応援する中年男のように、熱心すぎて逆に気持ち悪かったのだろうか。
想いが届かないとなると、次第に憎しみが生まれつつあった。





「世界一」 を 「世界一」 たくさん見届ければ、自分も 「世界一」 の存在になれる。


そのために旅に出た。
アメリカを皮切りに、予定では中南米を1年以上も放浪する。


思えばアメリカは、自分にとっては幼き日からの 「約束の地」 であり、さらに


・国民総所得世界一
・国連分担金支出世界一
・PKO分担金支出世界一
・自動車の所有率世界一
・在留邦人数世界一
・マクドナルドの店舗数世界一
・軍事費世界一
・CO2排出量世界一


などなど、挙げていったらキリがないくらい、よくも悪くも、数値的にも印象的にも、
いろんな意味で 「世界一」 を抱える国だ。
「世界一」 を片っ端から狩っていく旅のスタートとして、これほど相応しい国もなかった。



ところが、スタート直後にクリボーに当たって死ぬようなこの展開。
生まれて以来心で温めてきた憧れの景色が、ドス紫色に歪んでいく。
こんな色のシチューを友達に食わせる奴がマンガでいたっけ。
アメリカは 「世界のジャイアン」 と揶揄される事があるが、なるほどピッタリの表現だと感心した。


夢の国なんてのは、どうやら自分が作り上げた幻想だったらしい。
ここはアウェイ。 敵地のド真ん中。
歓迎の花束にチャカとドスが仕込まれていて、ヤクザが360度を囲んでいる。



「ふふ、そうかい。 どうあっても無事には帰さんつもりか。」



敵だと割り切ると、なんだかこの状況が面白く感じられてきた。
怒りの感情や落ち込む気持ちに3割ほど上乗せして、トラブった事を喜んでいる自分が居る。


所有物を盗まれてニヤニヤするなんて真性のド変態だ。
だが、サイヤ人はこういう状況でワクワクするという。
ついでに、死の淵から甦ると、なんか知らんが強くなっている。
同じことが地球人にも起こるということを、わしは何となく感じ取っていた。



ただ有名な観光地をめぐって、記念写真撮って、
「ああ外国ってすばらしいわ。 日本なんかダメぞね。」 とか語って満喫しまくって、
「アメリカへ行ってきました」 的なまんじゅうをお土産に買って帰るのもいいだろう。
だが、強くはなれない。


「今日はこんなステキなカフェでランチです。」
みたいなどーでもいい自慢話をホームページで公開して、
見知らぬ世間の皆様を不快のスパイラルに巻き込むのもアリだろう。
だが、強くはなれない。



そうじゃないんだ。



何事もなく行って帰って来られたら、それはそれで楽しい。
だが、スライムに100回勝ったところで、心は躍るだろうか?
求めるのは、レベル1でラスボスに挑むような 「戦い」 。
竹ヤリで戦闘機を落とそうとする、頑固一徹の 「念」 。



漢(おとこ)の道は坂道よ。
降りかかる災厄が、わしを強くする。



これは、ゲームだ。 トラブルという名の敵を、狩って狩って狩りまくるゲーム。
何か困難にブツかる度に、経験値獲得!!そしてレベルアップ!!
行く先々で 「世界一の何か」 を集めて・・・
「世界一」 「世界一」 を見た、 「世界一の漢(おとこ)」 に、わしはなるっ!!


ラスボスなんて居るのか、どうすりゃエンディングを迎えられるのかなんてわからんけど、
ゲームと聞けば、漢(おとこ)は喜んで命をかける!!
この世は、人生を遊ぶための巨大なゲームセンターだ。



「やったろやないけ。 漢(おとこ)じゃ、わしゃあ!!」



生粋の関東出身者でありながら何となく男らしい方言を吐いて、わしは誓った。


翌日から食事はパンと水だけ。
それが23歳・フリーターの、60ドル損失というあまりにも冷酷な現実(リアル)。
だが、ハタ目にどう映ろうとも、これは疑う事なき勝利なのだ。



ちゃらららっちゃっちゃっちゃ〜ん♪
わしはレベルが上がった。



イヤな思いをする度に、小気味良いファンファーレがわしの耳を打つ。



おかしな方向にヤル気のベクトルがシフトして、
わしの破竹の連勝街道が未来へ向かって伸び始めた。
それは、観光そっちのけでトラブルを迎え撃つ、「世界一マネしたくない旅」 の始まりであった。

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