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ジッチャンの名にかけて。
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1-3 「野獣」

ティカル遺跡 ( グアテマラ)

鬱蒼(うっそう)と生い茂るジャングルの地平線に、朝日が昇る。
もやが晴れ、乳白色の空気が茜色と溶け合い、やがて透き通っていく。神秘的な瞬間。


視界がひらけると、一瞬の静寂が辺りを包み込む。 誰もが言葉を失い、息を呑む。
そして、ちいさな爆発のような歓声が上がる。



ティカル遺跡。



視界いっぱいに広がる濃緑色の海。
それをもを突き破ってそびえる5つの石の摩天楼、マヤのピラミッド。
ありえない組み合わせのようだが、雲海の中の山々のように、不思議な調和を奏でる。


何百年もの間、ティカルはこうして森を見守ってきた。
おそらく往時と何も変わらない風景が、目の前に広がっている。


ここは日の出と一緒に見るのが最高だと聞いて、3時起きしてきた甲斐があった。
光のショーは数分続く。その間、誰一人としてそこを去ろうという者はなかった。





簡単に言うとピラミッドがジャングルの中にあって上から見るとカッコエエ、ということなのだが、
思わずムリして詩的な表現を使いたくなるような、それは不思議な光景。


誰が、何のために、どうやってこんなものを作ったのか、ほとんど解明されておらず、
その謎っぷりがまた男子の冒険心をアツくする。


実はこのティカル、「スターウォーズ」 のエピソード4 (最初のやつね) では、
反乱軍のアジトの惑星として、チョコっと使用されている。
SFで登場するくらい、この景観が常軌を逸しているということだろう。


世界一周した人が 「よかった場所ナンバーワン」 に挙げる事も多いティカル。
有名度でいえばエジプトのそれには遠く及ばないが、見ごたえは決して劣らない。


わしは気に入った場所では必ず立ちションをするという犬のようなクセがあるのだが、
ティカルも例にもれず(不幸にも)マーキングの対象となったのだった。



さて、ティカルの素晴らしさについては多くの人が語っているのでこのくらいにして・・・。
実はここには、もう一つの見所というか、客寄せ要素が存在する。



ピラミッドがあまりにスゴイので上にばかり気を取られがちだが、足元を見れば、
なんていうのだろう。アナグマ?
ちょうどネコくらいの大きさのかわいらしい動物が住みついていて、
旅行者の心を和ませてくれるのだ。


1匹発見すれば逆サイには2匹。実はチョロチョロと結構いて、
旅行者がピラミッドに登ると一緒にぴょんぴょんついて来たりする。


みんなこのカワイさにヤラれてしまうようで、付きまとわれた観光客は大抵エサをあげている。
いちおう野生動物。本当はダメなんだろうけど、
カワイイから許されるの法則は、人間だけのものではないらしい。


わしが2号神殿に登ったときも、足元をトコトコついて来た。
他人がやられているのを見るだけで微笑ましいのに、それが自分に向けられるとなると格別。
幼い頃から共に育った愛犬のようにいとおしく思えて、
中米全土で 「つるセコの化身」 と呼ばれたわしも、何かあげようかという気にさせられる。


ちょうど昼メシがわりにとビスケットを持っていたので、カバンの中をまさぐる。
と、隣に居たフランス人の旅行者がパンくずを投げた。


しまった、先を越された。


小動物は瞬間移動みたいな速さでパンくずに喰らい付く。
フランス野郎がポイポイと連続して投げると、掃除機のような吸引力で、
瞬く間にパンくずは消えてなくなった。


獣のスピードはますます上がり、そのうちパンくずが落ちる前に空中でキャッチするようになった。
高等技術を身につけ、恐るべき進化を遂げるビースト!!
フランス君も対抗して、高いところでホレホレとおびき寄せ、投げる。立ち上がってこれもキャッチ。
次のチャンスには自らジャンプして手から奪い取る。


次々と新技が生まれ、いつの間にかフランスパンと獣のスペクタクルショーみたいになっていた。
わしがカバンからやっとビスケットを取り出した頃には、
周りの旅行者の視線はフランスベッドに釘付けだった。


これからエサをあげようにも、ここまで衆目が集まってしまうと、フツーにはできん。


「やっぱり日本人にはユーモアがないわねえ」


などとケツのデカい白人ババアに思われては、小渕総理に顔向けができん。
今のわしは、日の丸を背負って闘っている。
何か、やらな。


わしはおもむろにビスケットを1枚口にくわえ、ほふく前進でビーストににじり寄った。
合コンのポッキーゲームのように、わしと獣がビスケットを咥え合う。
おお、結構ウケた。


口移しはイケるとふんで、今度は応用編。
さっきフランボワーズがやっていたように、高い位置でビーストを踊らせてやろうと、
新しくビスケットを口に挟んで、前かがみに立って誘導する。


獣の手がむなしく空をつかむ。ジャンプして奪おうとしてくるが、そうは問屋が卸さん。
スウェイバックでかわし、カワイイ獣をじらす。生まれついてのS。


観客は喜んでいるようだったが、一瞬、1人のギャラリーの目線が下に下がった。
そのことにちょっとした違和感を覚えた瞬間・・・


「ザクッ」


という音と共に、わしの背後にビスケットが散らばった。
後ろに組んだ手に袋本体を持っていたのだが、それが袈裟切りに破れてカケラが飛散している。


1匹発見すれば逆サイに2匹。
さっき自分で言ったとおり、敵はもう1匹いたのだ。


目の前のバカな動物と違って、低くていっぱい入ってるこっちを狙う方が、遥かに賢い。
大量の食料が落ちている事に気づいて、バカの方もそっちにむさぼりつく。
世界遺産に食べ残すくらいのエサをブチまけて、唐突にショーは閉幕した。


「やっぱり日本人はマナーが悪いわねえ」


二の腕がシミだらけの白人ビッチがそう思ったかどうかはわからないが、
その目は明らかに非難の色を帯びていた。




「おい」


だれかが指差すので、視線を落とす。


ぬおっ。


なんか手がシビレると思ったら、血が出ていた。
あんなカワイイ風貌であの動物、よく見ると恐ろしく鋭いツメの持ち主だった。


わしの左手の甲にはアディダスのジャージのような3本ラインが、キレイに刻み込まれていた。
なんとなくブルース・リーみたいでカッチョイイ。
だが、そんなことを言ってる場合じゃない。



消毒せねば。



ウチのネコに引っ掻かれたのならまだしも、相手は野生動物である。
しかも、ここは歴史の影に埋もれたジャングルッ!!
現代医学で解明できないナゾの病原体や、前代未聞の奇病が眠っていてもおかしくない。



3ヶ月ほど前、 「アウトブレイク」 という映画を観たのを思い出した。
アレはアフリカのサルが原因だが、それに噛まれたのをきっかけに、町が壊滅する・・・!!



マムシに噛まれたときは傷口を縛って口で毒を吸い出すのが基本。
だが、この場合、口から感染したらシャレにならんな・・・。


かといって何もしなければグアテマラが壊滅するかもしれない。
よくて狂犬病とか破傷風だろう。なにが 「よくて」 か、どっちにしてもいいことなどない。
洗うんだ。


ピラミッドのてっぺんに水道などあるわけがないので、
わしは持っていたコーラをカバンから取り出し、傷口にブッかけた。
粉々になったビスケットの上にビチビチと甘い汁が注がれ、アリが集まる。
ユネスコの職員が見たら卒倒してしまうだろう暴挙だが、今は命の方が大事だ。
さっきまでほほえましくショーを観察していた白人どもが、アゴが外れたような顔で見守っている。



とりあえず傷口は洗浄できたが、相手は雑菌。このままでは不安だ。



消毒・・・これしかないっ!!



近くでタバコを吸っていたフランスのナイスガイにライターを借りて、自らの手の甲を、あぶる。
火力は 「+」 。
松田優作ばりに豪快な炎で、自分の手の皮が焦げていく。
コーラの糖分がカラメル状に変化し、香ばしいアロマを漂わせる。


これには白人どもも、餌を待つヒナのように口をダラリ開けていた。
わしの心の葛藤など知る由もないわけだから、
ハタ目には小汚い東洋人がいきなり奇行に及んだようにしか見えない。


日本人はケガをするとコーラをかけてライターであぶるんだ、と思った人も居るだろう。
どこかから 「グレイト」 という声さえ上がっていた。


フランスの救世主ジェネラル・ド・ゴールが喫煙者だったおかげで、わしは一命をとりとめた。
その後コレが原因とみられる病気は発症していないし、
結局最初から何でもなかったのかもしれない。


だが、この時の処置が完璧だったから助かった。わしはそう思っている。


いずれ空前絶後の難病が全米を震撼させるだろう。
その驚くべき治療法の起源は、グアテマラのジャングルで出会った東洋人からヒントを得た。
高名な医師がCNNでそう述懐するのも、そう遠い日ではないかもしれない。

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