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ジッチャンの名にかけて。
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1-7 「ダメ人間」

オメテペ島 ( ニカラグア)

ニカラグアのド真ん中には 「ニカラグア湖」 というでっかい湖があり、
そこには 「オメテペ島」 というでっかい島が浮かんでいる。


島へ向かうフェリーの中で、1人のイギリス人旅行者に出会った。
名前はわからない。 白人なのに名乗らない、変わった感じの男だった。


イギリス人は英語が世界中で通じると思っているから、外国語を学ぶ意欲が低いという。
この男も、スペイン語は全くわかっていない様子だった。


ニカラグアの前には南米のコロンビアに居たというが、数字さえ覚えてきていないようだ。
飲み物を買う時も、子供の売り子にお釣りをゴマカされていた。


わしがフォローして子供からカネを取り返すと、
そのカネでまたコーラを買って、わしによこしてきた。


「お礼だよ。はっはっは。」


いい奴だ。 と思うと同時に、ああこれは・・・とも思った。
こういうタイプはトラブルを呼び込む。
巻き込まれたくはないな、と、危険な予感が走った。



オメテペ島は、8の字のカタチというか、雪ダルマのカタチというか、
丸い島が二つくっついたようなフォルムの島で、それぞれに大きい火山がある。
ヨコから見るとおっぱいみたいなので、
地元のおっさんは嬉しそうに 「おっぱい島」 と呼んでいた。


イギリス人はそのおっぱいに登りに来たという。
イギリスにはいいおっぱい、いや火山がないので、楽しみだと言っていた。


わしは登山にはノリ気ではないが、火山を近くで見たい気はする。
じゃあ麓までは一緒に行くかという話になり、翌朝、山方面へのバスに乗り込んだ。




さて、海外に行ったことがあれば誰もが共感すると思うが、
日本以外の国では、 「お釣りを充分用意する」 という習慣がない。
万札でジュース一本買うような行為はタブーだ。
特ににイナカは、高額紙幣を受け取ってくれないこともある。


バスの値段は2コルドバ (約20円) だった。
ところがイギリス人は、100コルドバのお札を徴収係に渡していた。
100コルドバは当時の最高額紙幣、日本で言えば1万円札。


もちろん、98コルドバものお釣りなんか、用意してあるワケがない。
お釣りはあとで、ということになり、
乗客全員から料金を徴収して、恐らくは着いた時に返ってくる。


「コレしか持ってなくてねえ。はっはっは。」


お前さっき、宿代を細かいので払ってたじゃないか。
大英帝国はどうか知らんが、コロンビアで学ばなかったのだろうか。
名前もわからないので、わしは奴を 「ダメ人間」 と認定した。


イナカのバスなのに意外だったが、日本の通勤ラッシュみたいに混雑している。
バス停がなく、道の好き勝手なところで乗り降りできるので、
いちいち停車・発進を繰り返して、なかなか目的地に着かないのだ。


おい、お前のアミーゴが降りたぞ。
何度目かの停車でそう言われて外を見ると、ダメ人間が居た。
まだ道の真ん中だろう。ハラでも壊したか?


さすがにシカトもできないので、わしも降りた。 どうした?と訊くと、


「あれ? ここじゃないんだ。はっはっは。」


どう見ても途中だろうがっ!!


「あ、お釣りもらうの忘れた。はっはっは。」


絶句だった。
旅人はしっかり者が多いと思っていたが、こんな不思議ちゃんみたいのは初めてお目にかかる。



結局山の麓の村までは歩いて1時間くらいかかり、
まさかの展開なので水も持っていなかったため、スイカ畑で1個イタダいて渇きを癒す。
ちょっと見送りのつもりが、割と悲惨な道行きになった。


何でわしまでこんな目に・・・


ツキを落としているのは完全にコイツだ。
一刻も早く、このキングボンビーから逃れなければならない。


麓の村に着くと、わしは直ちに折り返すバスに乗り込んだ。
じゃーがんばれよと、ダメ人間とはドライに別れる。


わしはわしで、もと居た村に戻ってから、バスを乗り換えて別の港を目指さなければならない。
今日中に島を出て本土に復帰するつもりだったが、
無駄なウォーキングのせいで、結構微妙な時間になってきた。


ある程度客が集まらないと、バスは出ない。 早くしてくれ・・・。
30分ほど待って、空席はあと4〜5人ぶんというところで、
んお? なぜかダメ人間が乗り込んでくる。



「いやあ、もう火山見たから登らなくていいや。はっはっは。」


呪われている。
わしはカバンの中のお守りを握り締めて、祈った。
塩があったら撒きたい気分だった。



結局、その日のうちに島を出ることはできなかった。


港へ向かうバスもダメ人間がトイレに行っていたせいで乗り遅れ、
1本遅らせたのが原因で、ラストの船にも間に合わなかったのだ。


くっ。
1人なら・・・ 1人ならッ・・・!!


何だかんだでべったりくっついてやってるわしも悪いのだが、
この男の持つ 「負」 のエネルギーは相当なものだ。
ホントに英国紳士かよ。絶望的に旅に向いてない。


そして、呆れたことに奴は、夕方いきなりこんなことを言い始めた。


「やっぱり火山に登りたくなってしまったよ。はっはっは。」


昼間見た方ではなくて、こっちの村の目の前にある、小さい方の火山。
それを見ていたらムラムラきたらしい。
そして、万全を期してガイドを付けたいとも言い出し、
宿の人間にガイドを紹介してもらおうとしている。もちろんわしの通訳で。


狭い村なのですぐにガイドは見つかったが、料金も言い値を飲んでいたし、
あろうことかガイド料全額をその場で渡してしまっていた。
そんなもん、契約成立で半分、登山が終わったら半分とかが常識だろう。
終わってから全額でもいいくらいだ。
持ち逃げされたらどーすんの?


「いやあ、大丈夫大丈夫。はっはっは。」



翌朝、今度こそ島を出ようと港に向かうと、
わしより遥かに朝早く出たはずのダメ人間が、ボーっと突っ立っていた。
思ったとおり、ガイドは現れなかったらしい。


「うーん、寝坊してるのかなあ。はっはっは。」


ここまで徹底していると、ある意味 「技」 だな、と思えた。
その時、ある考えがわしの中に芽生えた。



ああ、この人は、これでいいんだ。



わしはロサンゼルスやメキシコシティでの事があってから、
基本、「他人はドロボウ」 と思って旅してきた。


「騙されるものか」


これがイキな旅人の合言葉だと信じて、ボられないように、ナメられないように、
ナイフみたいに尖っては、触るものみな傷つけていた。


今でもそれが間違っているとは思わない。
べつに四六時中ケンカしているわけではなくて、
値段交渉とか日常会話も、ゲームと思って楽しんでいるだけだ。


こうすることで、自分だけにしかわからない満足感が得られる。
イヤならとっくに帰国しているし、勝ち負けは、やはり本人が決める事なのだ。



彼には彼なりの現地との接し方があって、それに沿っている。
そのやり方を、否定することはできない。
現に今の彼は、とても満足そうに微笑んでいるじゃないか。
いいんだ・・・これで。 いいんだ。


ダメ人間呼ばわりしてゴメン。
そう伝えたかったが、船が出港すると彼の姿はどんどん遠ざかり、もはや声は届かなかった。


がんばれよ。


でも、もうついて来んなよ。


たしかに彼はあれでいい。 あのままでいい。 
が、あくまでも 「わしと一緒でない時は」 ですよ。


貧乏神から解放された喜びで、わしは独りで祝杯をあげた。



どうも自分には、こういう頼りないヤツを引き寄せる魔力みたいなものがあるらしい。

これ以降、それは数多くのダメ人間に出会うのだが、
彼ほど密度の濃い不感症っぷりは、レア中のレアと呼ぶべき存在だった。


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