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ジッチャンの名にかけて。
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2-2 「エレニ」

リマ ( ペルー)

「かわいい」 「やさしい」 「おとなしい」 「でもエッチ」
と、日本人女性は世界中どこへ行ってもモテモテだが、
悲しいことに、日本男児は全くモテない。


「暗い」 「つまらない」 「女の扱いがヘタ」
などなど、特に欧米での評価は、お世辞にも高いとはいえない状況だ。


もちろん日本に居てもモテる人は、海外でも普通にモテる。
だが、 「全然イケてない女子が、海外に出ると急にモテる」 という話は多いのだ。
なぜか男子にはそういうフィルターはかからないから、この差は何なんじゃ、と思うワケよ。


発展途上国なら必ず 「結婚してくれ」 という奴が現れるが、相手は200パーセント貧乏人。
モテたのとは、ちょっと違うしな。




小僧ども。


「女子ばっかりズリーじゃねーかよー。不当にモテやがって。」
とお嘆きの小僧ども。



ソープへ行け。



じゃなくて、あったぜ。夢の国が。



さすがに南米は違う。



ペルーは、日本人が本当にモテる。



「どうせカネ目当てでしょ」 と思うかもしれないが、中国人を名乗ったとしてもモテる。
アチラでは 「中国人=カネ」 みたいなイメージはない。
ということは、容姿や性格がウケているとしか考えられないのである。
こんな国は、あんまり無いんじゃないだろうか?



どういう美的センスなのか知らんが、聞いてみると、
切れ長の目で痩せ型、長身・黒髪という容貌が、
ペルーの女の子の間では 「カッコイイ」 とされているらしい。


つまりほとんどの日本人がコレに当てはまるので、誰が行ってもモテる、というわけだ。
「オレちょっと肉ついてるけど・・」 という男子も、ご安心あれ。
ペルー人男子はコロコロした筋肉質の体形の人が多いから、
よほどのチビやデブでなければ、それに比べりゃ 「スラッとした長身」 に見てもらえる。





わしは地上絵で有名なナスカという村で、
学校帰りの女子高生30人近くに取り囲まれ、握手攻め&なぜかサイン攻めにあった。
あの地上絵のナスカだ。観光客など珍しくもないのに、でっせ。



同じ村の郵便局に行ったら、受付の姉ちゃんが急に抱きついてきたりもした。




「待ってたのよ。ナカガワ・・・・!!」




ナカガワって誰やねん。



違うよ、よく見なよ、と言っても、
「そっくりだし、いいわ。」
と言って離れない始末。
こんなことが、しょっちゅう起こるのだ。



わしに似ている有名人は江田島平八である。
現実のわしを知る者は、この待遇がいかに信じがたいものかおわかりだろう。


わしでさえこんなになるのだから、誰でもモテるはずだ。
公園で読書しているだけで女の子にキャーキャー言われる。
イケメンの気分を味わいたかったら、ペルーを目指すのが吉だぜ。 小僧ども。




さて、そんなペルーの激動の首都・リマに到着した。
日本大使公邸がテロリストに占拠された事件から2年が経った頃で、治安はまだまだ悪かった。


リマにも有名日本人宿 「ペンション西海」 があったが、また敢えて避けた。
いつの間にかわしは、自分の足で納得の宿を探すことが趣味になっていて、
日本人宿どころか、ガイドブックに載っている宿さえ避けていた。


外国人があまり泊まらない宿に行くと、珍しがって優しくしてもらえる。
そういうケースが何度かあったので、すっかり味をしめてしまったのだ。


この時も、 「治安が悪いから避けましょう」 と書かれた地域に群生する、
いわゆる連れ込み宿を物色していた。
日本のラブホもそうだが、連れ込み宿は値段の割にクオリティが高い。
久しぶりの大都会だし、長居ができそうな拠点を探すのは、重要な任務の一つだ。


いくつか比較したあと、少し高いが、一番部屋がキレイだった宿に泊まることにした。
受付のおネエちゃんがカワイかったのが、最大の決め手だった。




「中南米の3C」 と言われる、コロンビア、チリ、コスタリカ(キューバとする説もある)。


「南米のABC」 アルゼンチン、ブラジル、チリ。


そして、ミス・ユニバースを何人も出しているベネズエラ。


南米は美人が多い、というのは誰もが認めることだが、
混血度が他と比べて低いせいか、エクアドル、ペルー、ボリビアは空白地帯だ。
美人国をキレイに避けてここまで来てしまったわしは、
半年の間に 「女の南米」 という格言をすっかり忘れていた。



だが、そのおネエちゃんは、ペルー人にしては珍しく、スリムな美人だった。
顔がキレイでも、ハラとかケツがブヨブヨで残念、てな事が多い中、それは貴重なサンプルだ。


彼女の名はエレニ。


イキトスという、アマゾンジャングルに近い町の出身らしいが、
大学まで行ったのに、なぜかここで受付として働いていた。
21歳でまだ独身というのは、ペルーの女のヒトには珍しい。


このホテルはエレニのお姉さん夫婦の家族経営だそうだ。
連れ込み宿ゆえ昼から夕方にかけてはなーんにもやる事がなく、
掃除の時間が過ぎると、エレニはいつもヒマそうに座っていた。




わしが市内を見物して帰ると、
彼女は決まって嬉しそうに話しかけてきて、わしはその日の一部始終を報告させられた。
自分の宿に外国人の旅行者が来るなんて、初めての事だろう。
まるで異星人とでも接触するような感じで、興味津々だ。


わしもスペイン語の練習には最適だと思って、持てる力の全てを使って話した。
ときどきこっちが日本語を教えたりすると、彼女はみるみるマスターする。
毎晩、客が来る時間までは、フロントは二人の教室だった。


いつしかわしは、彼女と話をするために早く帰るようになっていた。
彼女もまた、ナカガワを見るような目でこっちを見つめていた。



エレニに将来の夢を訊いたら、


「子供を産むのが夢よ。 相手は・・・背が高くて、目が細くて、やせた外国の人なの。」


と、異様に具体的なアプローチを受けた。


さすがにやや引くが、気が付けば、わしらはヒマをみては二人で出かけるようになっていた。
外国人があまり泊まらない宿に行くと、珍しがって優しくしてもらえる。
そういうケースがまた起こったので、わしは完全に調子に乗っていた。




さっきの子供の話もそうだが、南米の女の子は積極的だ。
大和撫子だったらまずやらない事も、サラッと自然にやる。


それは、多くの日本男児が心の中で(熱く)望んでいる事である。
「こーいう事が起こったらサイコーだけど、現実にはありえないだろう」 
と思っていることを突然やってきたりするので、それで多くの日本人がKOされているのだ。




いつだったか二人で出掛けた時、
わしらから10mも離れていない所で、オバちゃんが引ったくりに遭った。
犯人は逆方向に走って逃げ、警官が追って行ったようだが、
結構な人ごみの中、辺りは騒然と、緊迫した空気に包まれた。


気が付くと、エレニがわしの腕をグイっと掴んで、ベッタリくっついていた。
「キャッ」
となって、思わず抱きついてしまったのだ。
少年誌にありがちな、王道的シチュエーションだった。


まさか現実にこんなことがあるとは・・・
抱きつかれた嬉しさと言うより、「本当にバナナの皮でコケる人」 を見たような気分だった。
思わずニヤついていると、ドラマは更に続いた。



「ああ、怖かったわ・・・」



エレニはわしの手を取って、



「ほら、こんなにドキドキしてる・・・」







もはや 「Boys be・・・」 ですよ。



この娘は男子中高生の想像力が生んだ幻影なのだろうか?
ひょっとしてジャパンのマンガオタク??
わしは大人だからもうひと声いただきたいところだが、童貞ボーイにはたまらんだろう。
あまりにツボを押さえたよどみない動きに、ウォーズマンのようにカパッと笑ってしまう。


狙ってやっているワケではないと思うが、
日本男児のハートをグイグイ掴みにかかってくるのだ。
そのうち銭形警部が真顔で 「あなたの心です」 と言いに来そうな、
とんでもない盗みのテクである。



む?
触って初めて気づいたが、この娘かなりの巨乳だぞ。
「やせている」 事が自分的なポイントだったが、これは新たな発見だ。



「どうしたの?」



「いやあ、キミ、いいカラダしてるねえゲヘヘ。スリーサイズはいくつ?」



・・・完全なセクハラというかエロジジイというか、
日本で言ったら訴えられてもおかしくない変態発言。


だが、ここは南米。
女のヒトに対してそのセクシーさをオープンに褒めちぎる行為というのは、
むしろ義務というか、やらない方が失礼に当たるのだ。
決して・・・ゴクリ・・・イヤラシイ気持ちとかそういうの・・・は・・・ジュルッ・・・ないのですよ。
マジで。



「ふふ。ありがとう。 90−60−90よ。」



なんですと?



そっそんな数値、少年マガジンのグラビアでしか見た事ないっすよ(たいてい詐称)。
スカウターの故障か?
ボン・キュッ・ボン。 
中南米ではこの黄金のプロポーションを 「コカコーラの瓶」 と表現し、理想の体形とする。
今まさに、本物が目の前にいるのだッ。



「おお、まさにコカコーラの瓶だね!!」
と言うと、



「あ、でもゴメンね。 サバ読んだわ。 ホントは88-58-88なのよ。」





もっといいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!





かっ神や。神のボディや。


わしは完全な貧乳派・ABカップ専門店なのだが(無用なカミングアウト)、
本物の神の前には、ちっぽけな人間の嗜好など無意味だった。


わしの手は真空に吸い寄せられるかのように、ムネから離れなかった。
マンガだと 「ドキッ、あっ、ゴメン!!」 「かああっ」 みたいになるところだが、
南米だからいいやと、そのままの不自然な体勢で歩き続けた。




結局1ヶ月近くもリマに居座ったが、毎日はとても充実していた。


観光する場所も尽きてくると、宿の改装を手伝ったり、ペルー料理を教わったり、
今度は住民としての楽しみ方が始まった。


エレニのお姉さんとそのダンナも、わしを家族のように扱ってくれて、
もうメシなんかも毎日一緒に食っていた。
ペルーは日系人が大統領になるくらいの親日国だ。
仕事をさがして、ここにホネをうずめるのもアリかとさえ思った。




だが、それはできないのだ。




見たいのは彼女のパイオツ 「だけじゃない」 。
わしは南米の、いろんなモノを見に来ている。


今は6月だが、月末にはクスコという町で、「インティ・ライミ」 という、年に一度の祭りがある。
それを見送ってまでここに残るべきか?


「終わったら戻ってくればいいじゃん」 と思うかもしれないが、そう簡単ではない。


ボリビア・アンデス山脈は7月、8月の乾期が旅には最適だし、
ブラジル・アマゾンは9月ごろがいい。
チリ、アルゼンチンにまたがるパタゴニアは12〜3月の夏でないと動きづらい。
リオをはじめ、ブラジルのカーニバルは2月から3月だ。


見どころにはベストな時期というものがある。
それを追っかけていく関係で、1箇所に長居しすぎると、全てが狂ってしまうのだ。




潮時だった。




不満など全くなかったが、ケーキ皿をナメるくらい名残惜しいが、これ以上は続けられない。
ここに戻ってくるつもりはないし、まして連れて行くなどできるはずもない。
だってカネねえし。
日本とペルーの混血、スーパー地球人を製造する気には、悪いけど今はなれなかった。


冷静になればなるほど、正直に、正直なところ、自分の目的は愛より優先だった。


障害を乗り越えてまで貫く程ではないと、冷淡に切り捨てたのだ。
我ながら最悪に心がない。
そう考えると、なおさら自分には一緒に居る資格がなかった。



「だってオラは、旅人だから・・・」



言えばラテン女子だから大泣きして殴りかかってくるかと思っていたが、
彼女は涙をにじませた後、全てを覚悟したように頷いた。
そのしっとりとした異様な物分かりのよさが、かえって罪悪感を増幅させた。






雨が降っていた。


リマは砂漠の中にある。 
雨など年に1日降るか降らないかだそうだ。
そのリマに、霧のような雨が舞っていた。


わしには偶然には思えなかった。
この別れを、天も悲しんでいるように見えた。



地元の人はそれを 「インカの涙」 と呼ぶ。



うさん臭い地ビールみたいな名前だが、この状況にはあまりにもハマっていた。
ナカガワもこんな気持ちでペルーを去ったのだろうか。


いつかあの宿に別の東洋人が訪ねていけば、エレニは 「あなたでいいわ」 と言うかもしれない。
そうすれば、彼女だけでも幸せになれるだろう。


漢(おとこ)には、そう願うぐらいの事しかできなかった。
「一生に一度くらいモテて困ってみたい」 と思っていたが、、
こんなんだったらいつものモテない自分の方が、よっぽどラクだと思った。


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