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ジッチャンの名にかけて。
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2-6 「神の村」

フォス・ド・イグアス( ブラジル)


ブラジルに入ると、全てがポルトガル語に変わった。


フォス・ド・イグアスは、川を挟んでスペイン語圏のパラグアイやアルゼンチンのすぐ隣。
なのに、数百メートル向こうからちょっと歩いてきただけで、
言葉的にはもう、完全に別世界だ。


中南米はずっと同じ言葉が通じるので、
国境越えによる 「国が変わった感」 はとてもウスい。
こういう 「急激な変化」 は初めてだったから、
わしはまた 「ふりだし」 に戻された気分で、苦戦していた。




あの 「キャプテン翼」 で、


ポルトガル語とスペイン語はよく似ていて、
日本の標準語と関西弁くらいの違いしかない



と言っていたのに・・・話が違うじゃないっすか。 高橋陽一先生ィィィ!!



おそらく、 「片方を完璧に使いこなしている者にとっては」
という、重ー要な枕詞(まくらことば)が抜けていたのだろう。



8ヶ月もスペイン語圏に居たとはいえ、まだまだ初心者レベルのわしには、
津軽弁とギャル語くらいの違い があって、
正直何言ってっかわかんねーんだよォーって感じィー。
ホワイトキックでMK5かつチョベリバだったのだ。





今更新しい言葉を覚えるのもメンドいし、
「向こうがわかるなら、スペイン語で通そうか・・・」
とも思ったが、せっかく地球の裏側まで来たのだ。
基本的な言葉くらいは、覚えた方がいい。


特にブラジルは半年後のカーニバル時期にもう一度来るつもりだし、
滞在も何だかんだで、トータル数ヶ月に及ぶはずだ。
ここは、キチっと習得しておいた方が、後々のためにもいいだろう。


何より現地語を話すと、人々の ウケが全然違う のだ。
ブラジルに入った途端に女の子の セクスィー度 が上がったことだし、
うん・・・後学のため・・・ゲフン・・・真剣に取り組もうぢゃないか。



それにしても、ガイドブックの巻末に載っている会話集によると、
「バスターミナルはどこですか?」 が、


「ドンデ エスタ ラ テルミナル デ アウトブス?」 ←(スペイン語)


「オンジ フィーカ ナ ホドビアリア?」 ←(ポルトガル語)



・・・全然似てませんけど。




ま、何事も実践あるのみ。
実際に用事があったのでバスターミナル方面に向かって歩きながら、
近くを通った人に、この質問を投げかけることにする。
最初に出会ったオジさんに訊いてみると・・・おっ。 通じた。



この道をまっすぐだ、と言っているようだったが、やはりスペイン語とは違う。
わかったような、わからないような、そんな感じがカオに出ていたのだろう。
オジさんは 「ついて来な」 的な仕草をして、歩き始めた。
その足はまっすぐ行けば着くはずのバスターミナルには向かわず、
なぜか、谷底のわけのわからない貧民街にズカズカと踏み込んでいった。






























オジさんの名は、レネ。
医者だと言っているが、どちらかといえば患者に見える。
その眼差しは 玄人(バイニン)のように鋭く、
「バレなきゃイカサマじゃない」 とか、平気で言いそうなタイプだ。



途中、知り合いの家みたいなトコに立ち寄ると、
レネはビニール袋に入った お茶っ葉のようなもの を持って出てきた。
慣れた手つきで紙に巻いて火を点けると、
ああコレ、完全にマリファナのニオイだ。



「いいか、ブラジルは危ない国だからな。 気をつけろよ。
悪いやつらに囲まれた時は、ビビッと、すばやくやっつける んだ。」



と、歩きながら 見えない敵と戦って くれたりするのだが、
いや、まず お前に対して警戒が必要 だろ。



なんとか無事に貧民街を抜けると、
野っ原の真ん中に、塀で囲まれた一角が、ぽつんとあった。
確実にバスターミナルではない。
刑務所? とも思ったが、それにしては塀が低すぎる。



「着いたぞ。ここが 神の村 だ。」






























バスターミナルは???
































どこをどう聞き間違えたのか、
バスの時刻を調べたかったわしは、全知全能の父の下へ連れて来られたらしい。



それにしても、神の、村。 か。
神が創った村か、神が居る村だろうか。



レネ本人といい、この場所といい、
入国初日から 怪しすぎる だろ、ブラジル。



入口とおぼしきところには立派な鉄の門が見えたが、
レネはなぜか、生垣の隙間の穴みたいなところから、中に入った。
言いたいことは色々あったが、
言葉があんまり通じないので、わしは大人しく後に続いた。


































「神の村」 と呼ばれたそこは、小さいながらも本当に 「村」 のようだった。


囲いの内側には 「家」 があり、「畑」 や 「家畜小屋」 があり、
そして小さな 「学校」 のようなものもあって、
それだけで一つの社会が完結している。


その中心には、「教会」 みたいなものがあって、
わしが初めて訪れた時も、若い女の子達が、熱心に祈りを捧げていた。
「神の村」。
その名の所以はこの教会にあるのだろうというのは、初めて来たわしにもすぐにわかった。




孤児院? 修道院?
そういうのとは違うものらしいが、老若男女、40人余りが、
この中で 「半」 自給自足の生活を送っているという。


驚いたことに、建物なんかも全て自分達で建てたそうだ。
南米の一般人の家は ブロックとタイルのみ
で作れるとはいえ、
そこまで徹底するとは、なかなか男気がある。


俗世を離れ、信仰の名の下に、
独自のライフスタイルをとる人々の集まり。


その割にはえらく 町に近い立地
なのが気になるが、
みんなで耕し、みんなで食べ、みんなで祈りながら送る、
一つの大家族のような生活。
ここではおカネは要らない。
犯罪や争いもきっと起こらない、理想の共同体だ。


日本で 「宗教」 というと 「怪しい人の集まり」 みたいなイメージが先行するが、
ここの人たちは 地下鉄にヘンな薬を撒いたり
人の 足の裏を見て運勢を占ったり はしそうにない。
ああいう団体と違って質素で、マジメな印象がある。



実際にムショ上がりらしい悪党レネは、こういう世界とは最も縁遠い感じがする。
しかし、医者だという話はマジらしく、
時々この村に来ては、無償でみんなの健康をチェックしているんだそうだ。 
それだけでなく、ちょっとしたマッサージや針治療なんかも心得ているっぽい。



言われてみれば 「病院」 がないこの村の人にとって、
レネはトキのようにありがたーい存在なのだろう。
本当は アミバ様 なのだが、みんな慕って寄り集まってくる。



そのレネが連れて来た友人、ということで、
本当は無関係なわしもやたら待遇がいい。
奥から 「長老」 みたいなヒトまで出てきて、
来たばかりのわしにいきなり
「よかったらしばらく暮らしてみないか」
的な事を言っている。



ほぼ自給自足の 「神の村」 では、
食い物も酒も、基本的にタダだ。
自家製なので決して豪華ではないが、
コミネ現れるところタダ飯有り。



わしは食欲の命ずるままに滞在を即断した。
ポルトガル語が学べるとか、神について興味がとか、
今思えば理由などいくらでもあったのだが、
その時は野獣のようにハラが減っていて、理性の働く余地などなかったのだ。
食べものに何か入っているかもとか、そんな疑いすら持たなかった。



「ところでキミ、宗教は?」



「いやあ、そんなに強力にじゃないけど、どっちかというとブディスト(仏教徒)かなあ。」



「そりゃいかん。 すぐに 改宗 しなさい。」



なにっ・・・?



長老は、さっきの礼拝堂にわしを連れて行った。
「神の村」 に住むためには、どうやら神の子になる必要があるらしかった。




























ヒザ立ち、いやこういうのは跪(ひざまず)く、っていうのだろうか。
長老の前でそんな体勢をとると、両手を組み、頭を垂れ、
いわゆる 「お祈りのポーズ」 にさせられ、上からピッピと水をかけられる。



やりかたは色々あるそうだが、これがキリスト教の 「洗礼」 という儀式らしい。
これでもう、二代目はクリスチャン!!



そして、



「今日から お前はカルロス だ。」



と、ありがたいようなありがたくないような、
オメガトライブ みたいな別名をいただき、
これでわしは 1000パーセント、神の子ということになるらしい。



なんだか知らんが、ついでに今日、8月5日はわしの誕生日 になったそうだ。
誕生日が年2回で、三十路もあっという間だ。




長老は満足そうに微笑むと、
「まだここに居なさい」 みたいなことを言った。


これから 「懺悔」 があるので、ついでに見て行けと言うのだ。



キリスト教には 「懺悔」 というシステムがあって、
悪いことをしても、神に謝れば許される らしい。


でも、普通それって、神父サマと一対一(サシ)で告白するものじゃないの?



普通の教会には木製のイスが並んでいるものだが、
ココの教会は、体育館のようにだだっ広い空間。



どうやらこの村では、
自分の罪を 大声で みんなに聞いてもらう事を 「懺悔」 と呼んでいるらしい。
今日はオバちゃん二人が 迷える子羊 らしく、
いつの間にか礼拝堂のド真ん中にスタンバッている。



「それでは、おまえの罪をなんちゃらかんちゃら・・・」



と、唐突に儀式は始まったものの、
他人の悩みとか身の上話など 全く興味が無い


しかも、順番に言えばいいのに、
2人居るオバちゃんが 同時に喋り出す ので、
もともとわからないポルトガル語が余計に聞き取れなくなって、呪いの言葉のよう。
まるで ジャイアンリサイタル のような耐え難さだ。



やがてオバちゃんはテンションが上がって涙を流し始めたが、
そんなに悔いてるの? いったい何をやらかした??
と、感極まった他人をいろんな意味で遠ーーーーーーーいところから眺めていると、
オバちゃんたちは、そこで前触れも無く、小刻みに震え始めた。


おおっ、顔、白目むいとるっ!!
口も半開き・・・で、ヨダレ垂れてないか??































ぎゃああああああああす!!




























アンギラスみたいな奇声を発しながら、
突如オバちゃんは咆哮し、嗚咽し、小刻みに震えたまま、
クルクルとその場でヨコ回転 を始めた。


でんぐり返しとか側転じゃなくて、フィギュアスケートみたいなヨコ回転ね。


仕掛け時計の、3時ちょうどになると出て来る人形のように、
チョコンと両手を広げて、ゆっくりではあるが回りだしたのだ。
スカートがふわっと広がって、ただの泣き叫ぶババアが微妙にカワイく見える。






























ЗЖΞΨ♪Å・・・!!




















































相変わらず己の罪を悔いているような雄叫びはあげていたが、既に言葉になっていない。
回りながら叫ぶのはしんどいのだろう。
明らかに足にきている



そのうちにその場で回転するのもおぼつかなくなって、
フラフラと、広い礼拝堂いっぱいを使って回り始める!!
これがホントの  ROCK & ROLLッ!!
シェゲナベイベー!!



レフェリー、いや神父サマ的な人はさっきから真ん中に立っているのだが、完全放置。
2人のオバちゃんが好き勝手にヨロヨロしているので、
時にお互いが ベーゴマのようにぶつかり合って、はじけ飛ぶ。



その勢いでロープ際、じゃなくてカベに激突しそうになるところを、
周りを取り囲む村民が キャッチして、真ん中へ押し戻す



なんぞこれ。
ランバージャック・デスマッチ ですか?



「特攻(ぶっこみ)の拓」 かなんかでこんな リンチのやり方 があった気がするが、
このオバちゃんたちは 永遠にやめられない のだろうか?



うーん、まさに 死の踊り だ。
ここまでやれば、なんか 神様も許してくれそう な気がする。





数分間、それは全力で回り果てたオバちゃんたちは、
その場で糸をプツッと切ったように崩れ落ちて、動かなくなった。
雰囲気的にはアダルトビデオのイッた人みたいな状態なのだが、
ババアだから気持ち悪い。



こんなのを週1回、
まあ毎回同じ人ではないだろうけどやっているのだ。
争いも犯罪もないはずのこの村で、よく犯す罪があるものだ な。



感心しているとポム、と背中を叩かれた。
振り返ると、長老だった。




「さあカルロス、次はお前の番だ。」



























えええーーーーーーー!!

























いやいやいやいや・・・・!!


ボク別に罪なんか犯してないし、
つうかあんなトリップした感じなんて 絶対やらない よ。



まあいいからいいからと、
長老は久しぶりに来た孫に かりんとう でも勧めるかのように、
半ば強引にわしを中央に押しやった。



シャイな女子中学生が、
友達にノせられて無理矢理校舎裏で告白させられるが如きシチュエーション!!



長老の目は優しげにわしを見つめつつ
YOU告っちゃいなよ!!
と語りかけてくるのだが・・・いやムチャだろ。



よくわからないがさっきのレフェリーが、
「どうぞ告白なさい」 みたいな事を言っているようだが、
別に無い じゃダメなんですか?



もう1人、働き盛りっぽいニイちゃんも出てきてブツブツ何か言ってるが、
新入りの初の告白タイムだ。
周りのみんなの注目は 100%わしに集中 している。
もはや引っ込みがつく状態ではない。
何か言わないと終わりそうにない。



思い出せ! 何か・・・罪ッ!!
そういえば 世界遺産の遺跡で野ウンコ したけど、それでいいかな。
よく考えたら 1回じゃない し、罪としては立派なもんだろう。



思い出してみると ボリビアのゲロの件 や、メキシコで逮捕されかかった件
エクアドルではストーカーまがいの行為 までしているし、
ロクなことしてない な。 わし。
バファリンの半分がやさしさでできているように、
この旅自体が罪のカタマリ みたいなもんだ。



これをスペイン語なりに訳して言うのは 大変面倒くさかった ので、
日本語でそれっぽくブツブツ言ってみせるわし。
どうせ日本語だったら何喋ってもバレやしないのに、
なんだかんだでマジメに懺悔している 自分を殺したい。



隣のニイちゃんはクルクルとは回らず、
土下座みたいな体制で床をブッ叩きながら泣き叫び始めた。
南米の人間は概してオーバーアクションだが、
ここの村民のそれは ルー大柴も裸足で逃げ出す ハイテンションだ。



一方わしはこれっぽっちも後悔の念が湧かないばかりか、
隣の彼との温度差が 逆に面白く なってしまい、
笑いをこらえるのが大変に。



こうなるとニイちゃんのアウアウいう声が チューバッカみた に聞こえるし、
もう高1ぐらいの女子みたいに、何を見ても笑ってしまう。
今なら 「夜もヒッパレ!」 のクソみてえなダジャレ曲紹介でも笑えるだろう。
それほどのノーガードぶり。
わしは必死に口元とハラを抑えて、震えながら心に取り憑く悪魔と戦っていた。




数分後、ニイちゃんが叫び疲れたあたりで何となく懺悔タイムは終了。
わしの体勢は遠目には 泣いているように見えた らしく、
壁際に戻ると、長老は すげえ満足そうな表情 でわしを迎えてくれた。



「よく・・・告白したね」
みたいなこと言ってねぎらってくれているみたいだけど、
イヤ、 また一つ罪を重ねただけですから。




このあと数日間、この村で過ごすことになるのだが、
神に見られていると思うと・・・
なんか 生まれてきてすいません。



8月5日生まれのカルロスは、それ以来電子ジャーに封印されたまま出てこない。

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