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ジッチャンの名にかけて。
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2-7 「筆ペン事件」

マナウス( ブラジル)


あれ? 無いぞ・・・


わしはガサガサと、自分のバックパックを探っていた。
いつも一番上に入れているはずのフィルムケースが、見当たらない。



フィルムケースというのは、フィルム1個入れるプラスチックのあの入れ物ではなく、
空港のセキュリティのX線からフィルムを守るという、鉛かなんかでできた、

実はあまり意味のない袋 のことだ。

しかし、わしにとっては撮影済みのフィルムが入った、タマ袋の次に大事な袋
それが、どういうワケかカバンから消えている。




マナウスの宿には、ついさっきアマゾンのジャングルから戻ってきたばかりだった。
船を出してくれた旅行会社の人にお礼を言いに行って、
その間預けてあったバックパックを引きとって、開けてみると、こうなっていた。



荷物を全部出してみたが、ついにフィルムケースは現れない。
シャワーを浴びるために石鹸を出そうとしただけなのに、
とんでもない事実に気づいて、わしは 全裸のまま 呆然としていた。









ジャングルに行って1週間。
預けている間に、何者かにカバンを開けられたのだ。 間違いない。
そう言えばいつも必ず右からかけている南京錠が、左からかかっている


わしの荷物は30リットルのバックパックが1個で、長期旅行者としてはかなり小さい。
着替えなんかキチっとたたんで、常に決められた位置にモノを収めないと全部入らない。
それぐらい小さい。


だが、カバンを開けたとき、一番上からはくしゃくしゃになったウエスタンシャツが出てきた。
そうなると何かを外に出さないとカバンを閉められないはずだが・・・




はうあッ!! 




となってカバンの中を改めて確認すると、


現金もパスポートも、大事なものは・・・ 全てある


なくなっていたのはフィルムケースと、

あとは、小さなポーチに入れてあった アーミーナイフ 、

ペンケースの中の 筆ペン ぐらいだった。





当然、犯人はモノを盗むために開けただろうに、なんでこのチョイス?

盗難被害自体を現実の事として受け入れる準備もできていないのに、

いらん謎が多すぎる。




とりあえずわしはパンツを履いて、
道を挟んで宿の向かいにある旅行会社へ駆け込んだ。
一週間ぶりのシャワーは、とりあえずおあずけだ。





























「てめえら全員動くなァァァ!!」



ドアをブチ破らんばかりの勢いでオフィスに殴り込むわし。



スタッフはポッカーンとしている。

数分前に笑顔でお礼を言って帰ったはずの日本人が

阿修羅面・怒り みたいな形相で戻ってきて何事かわめいているのだ。

そりゃそうなるだろう。



「おいおい落ち着けよ。 一体どうしたんだ?」



「てめえらっ!! てめえが・・てめ、 にもっ、荷物ッ!!」



怒りに任せているときは日本語が一番だという人は多い。
実際、ボったボらないとかでモメた時なんかは、その効果は非常に高い。

ただ、状況を説明しなきゃならんケース になると、

日本語じゃ 全く相手に伝わらない ので、このへんがもどかしい。



「預けてあったカバンが開けられていて、いろいろ盗られた。」



コレを伝えるには、英語やスペイン語も駆使する必要があるだろう。
一応辞書を出して、ポルトガル語を調べながら怒る姿は、かなりマヌケだ。

わしはできるだけ 「怒ってるんですよ」 という点をアピールしたいのだが、

雰囲気的には 竹中直人のネタ みたいになっている。




「そうか、わかった。 で、キミは結局何を盗まれたんだ?」



























「筆ペン・・・」






























「えっ?」





























「筆ペンだっ!!」































よくよく考えてみると、
たかがペンごときでここまで怒り狂うのは、見てる方からすると 相当おかしい


しかしっ!!
フィルムケースッ!! アレ半年分の思い出ッ!!
あんなカネに換えられないものが無くなって、冷静でいられるはずがない!!
それに、モノが安いとか高いとか、そんなもん関係あるかっ!!


盗・難ッ!!


その事実そのものが、許せることじゃない。
うん、いいんだな。 怒っても。



URYYYYYYYYY!!




アーミーナイフはともかく、筆ペンなんてブラジルには存在すらしない。
盗まれたモノの詳細を伝えようと、怒り心頭なのに丁寧に絵に描いて説明する。
フィルムケースなんて、使用法とかも伝えようとするから悲惨だ。



「こんなカタチでえー、こうクルクルっと巻いてえー」



「おーキミ、絵ウマイねえ」



・・・って なごんでる場合じゃねえ!!



「だからっ!! 犯人はてめーらのうちの誰かなんだから動くんじゃねえ!!
今から 一人一人 調べてやるからな。 オラ、 カバン出せやっ!!」



自分でも驚くほど威圧的にその場を仕切り始め、
わしはそこに居た関係者らしき人間4人のカバン、全員分を調べた。
机の引き出しとか、書類ケースの中も、全部出して探す。


両手を上げさせて、ペタペタと 入念なボディチェック も実施!!

肛門の中は・・・まあ 後にしといてやる



それでも出てこないので、
続いて隣の部屋にあるトイレのフタの裏や、水のタンクの中も開けて調べる。
額縁や、天井の板まで外す。
ついにはタンスをどかして裏側を覗き込むと・・・




ホコリにまみれて、スルスルと フィルムケースが現れた!!



まものたちは おどろき とまどっている!!!




それまでのヤツら4人はヴィジュアル系バンドのような スカした態度 だった。
何も見つからなければ、 「この日本人がヘンな言いがかりをつけてきた」 とか言って、
盗難自体なかった事にするつもりだったのだろう。



だが、さっき絵に描いて説明したそのまんまのモノが、目の前から出てきたのだ。
身に覚えがあろうがなかろうが、これでもう、言い逃れはできない。



わしは勝利を確信したときの 二代目JOJO のような表情になって、
旅行会社の面々を睨みつけた。



「さあーて、どうしてくれようかねええええーーーー。」































まあ当たり前だが、結局4人は 「オレは知らない」 の一点張りだ。


わしも、とりあえず一番大事なものが戻ってきたことだし、
犯人が誰とか、そのへんはどうでもよくなっていた。



しかしっ!!
無くなった筆ペンとアーミーナイフの分は キチっと補償して もらわねーとよー。
誰が盗ったにせよ、責任は預かっていたオマエらの会社にあるワケだからな。



立場的には 圧倒的優位 に立ったことだし、

もう ムチャな要求 とかしちゃうよ。 わし。



とりあえず弁償してもらいまひょか。


アーミーナイフ 80ドル!

筆ペン 10ドルッ!!




ホントはナイフ3000円くらい、筆ペンは200円くらいだけど・・・


「あのペンは南米では手に入らない、特別なやつなんだ!!」


とか言ってね。 そこはホントだしね。




さらに、本当は盗られていないけど 

メガネ(イタリア製) 400ドル!!!  



さらにさらに、さっき出てきたフィルムケースを開けて、

「あーーーーーー!! 撮影済みのフィルムがなくなっとる!!
アレはおカネに換えられないぞ、思い出だからな。

この 精神的苦痛 はどうしてくれるんじゃい!!」

と攻め込んで、 さらに50ドルッ!!!!



これはクリリンの分!!



みたいな怒りに満ちた表情で次々とヴァーチャル被害額を上乗せし、

気づけば総額 500ドル超えっ!!!!!



「さすがにやりすぎか?」



と思っても、手を緩めてはいけない。
犯人がこの4人のうちの誰かだとすれば、わしのウソはとっくにバレている。
だが、 「そんなもの盗ってない!!」 と口を滑らすことはできないのだ。
攻めるなら今ッ!!


ロビン戦法ナンバー1 「獲物は逃がすな」
Sの血が踊る。


向こうは向こうで、必死にそれを値切りにかかってくる。
ここからが心理戦、交渉のキモだ。



「おいおい、バカ言うなよ。 そんなに払えるワケがないだろう?」



・・・来やがった。



「そうだな。せいぜい 200ドル がいいところだ。 コレでカンベンしてくれよ。」



・・・・!!!!




言うまでも無く、わしの本当の被害額は 30ドル弱 だ。

も、もうかっとる・・・・ププ・・・



だが、ここで少しでも笑顔を見せれば、怪しまれて全てが水の泡だ。
わしはいかにも納得のいかない表情で、返す。 



「は? なんで 半分以下 なワケ? 

オレ被害者よ? 警察呼ぶよ ?

現金がムリなら他のモノで補償せんかい!! ここ旅行会社だろうがあああ!!」



オフィスの机をドガッと蹴りこんで、わかりやすく怒る。
アームストロングと名乗る、プロレスラーのような風貌のここのボスは、
次の瞬間、わしにガバっと覆いかぶさってきた。

おっ、暴力に訴えるつもりか?? けしからん男 だ。



アゴに掌底をたたきこむ準備をしつつ肩に置かれた手を振りほどくと、
あれ・・・ 泣いとる。




「オレも女房に逃げられてよおおおおお。 カネがいるんだよおおおおお。
ベレンまでの船代 出すから、もうソレでカンベンしてくれよおおおお。」



悪党がマンガなんかでやる 「泣き落とし」 そのものだった。
女房が逃げたのになぜカネが要るのかわからないが、涙はリアルに流れている。
演技派め。 コイツらの悪党ぶりも筋金入りだ。



ちなみに今いる町・マナウスはアマゾン川の最奥、ベレンはアマゾン川河口の都市で、
その距離は1300キロ以上、
船旅は4泊5日で 約90ドル かかる。



ご、合計290ドル・・・



しばらく悩んだフリをしたあと、
わしはいかにも妥協の末、という雰囲気を醸し出しながら、
強奪するかのように、パッと200ドルと船のチケットを受け取った。



「チッ。 しけてやがるな。」



現実に、しかも自分がこんなセリフを吐くとは思わなかったが、演出上仕方がない。

わしは フレンドリーな感じ のボディブローを一発、
アームストロングのドテっ腹にブッ込んで、オフィスを後にした。



怒りは生理痛のように、いつの間にか治まっていた。 
しかし、なんとなく罪悪感のようなものを感じて、その心境は複雑だった。


「こち亀」 に 意味不明な巨乳キャラ が登場した時と同じで、
笑えばいいのか、悲しめばいいのか、心の置き場に迷っていた。






























よくよく話を聞いてみると、
この旅行会社のオフィスはツアーを利用した外国人をしょっちゅうタダで泊めているらしく、
わしがバックパックを預けている間も、オランダ人が1人、泊まっていたのだそうだ。
あろうことか そいつの泊まる部屋 = わしの荷物置き場 ・・・


ココからはわしの推理でしかないのだが、
そのオランダ人は貴重品を小物入れの中に隠すタイプの旅行者だったのではないか。


どうやってカギを開けたのか知らんが、
犯人は真っ先にペンケースやポーチを漁り
とりあえず木目調でモノ珍しい筆ペンと、便利なアーミーナイフを抜いたのではないか。


そして、次にどこかを探ろうとした時に旅行会社の人間が戻ってくる物音に気づき
慌てて荷物を戻して、カバンを閉めたのではないか。
入りきらないフィルムケースを、タンスの裏に放り投げたのではないか。




だとすればクシャクシャに入っていたウエスタンシャツの件も説明がつくし、
他人にとって何の価値も無いフィルムケースがカバンから抜かれていたのも、納得できる。
そういえばメガネケースの中にあったメガネ拭き用の布がクシャッと乱れていた事だし、
この推理で、ほぼ間違いはないだろう。



「だったら旅行会社のおっさん達も被害者じゃん、かわいそうじゃん。」



と思うかもしれないが、奴らにはそんな人間を泊めた責任がある。
わしの荷物をそいつの手の届くところなんかに置いた責任がある。
「責任を取る」 とは、 「被害者が納得するカタチを作る」 ということですよ。


だから、決してやりすぎではないのだ。 多分。

多めにもらったのは 慰謝料 ってことで・・・



こらこらそこのキミ、サギ とか言わないようにっ!!









ま、真相は全て闇の中だし今となってはどーでもいいのだが、

旅行中に所持金が増える という前代未聞の事件。

わしは勝ったような負けたような、釈然としない気分のまま甲板から川の流れを見つめていた。

  

マナウスからベレンへの船旅はそれは快適なものだったが、
誰がどこで見ているかわからないので、メガネはブラジルを出るまで使えなかった。



※ 後々旅行者からの情報を聞いてみると、
  このアームストロングというオヤジの評判は最悪で、
  ニセツアーやらボッタクリチケットやら、いろんな人が被害に遭っているそうです。
  だから 「みんなのカタキをとった」 ってことで・・・許してネ♪   だめ?



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