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ジッチャンの名にかけて。
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2-8 「ブラック・リスト」

パラマリボ( スリナム)


※ 今回のお話を理解するには予備知識が必要になりますので、
  あまり海外旅行などされない方は、まず ・ コチラ >> をご覧下さい。
  
  「飛行機何度も乗ってますし」「常識ですわ」 
  というナウなヤングの皆さんは、続きをどうぞ。


























筆ペン事件の直後、



被っていた帽子を路上でひったくられる

という驚きの引きの強さを見せつけたわしは、
傷心のままブラジルを後にし、いよいよギアナ三国へと歩を進めていた。



ギアナ三国 とは ここ↓



「そんなトコに国あったの?」

と、南米の人間ですらそんなリアクション

しかねない超マイナー国家群だが、



右から
仏領ギアナ(フランスの海外県)
スリナム(旧オランダ領)
ガイアナ(旧イギリス領)
と独自の宗主国を持ち、文化もそれぞれ。




見どころ的なものはあまりないものの、

ラテン一辺倒で食傷気味 になる中南米においては、

珍しく 「異国情緒」 が味わえるレアエリアだ。










にも拘らず、ここを訪れる旅行者は、とても少ない。









その要因、これらの国をマイナーたらしめている要因の一つが、

なんといっても アクセスの悪さ だろう。



ここら一帯はいわゆるアマゾン・ジャングル真っ只中であり、

通れるルートが限られている上、時には 道がなかったり する。






隣の国なのに道がつながっていない

なんてことは結構あるので、
わしも長ーい時間をかけて、やっとガイアナの首都、ジョージタウンまで来ていた。




筆ペン事件のマナウスから、

移動時間だけ数えても10日。



船→船→バス→ボート→飛行機→ヒッチ→ミニバス
→ボート→ミニバス→フェリー→ミニバス


という行程を経て、
ようやく辿り着いた「辺境の首都」だった。

































さて、
ここまで来ると次はガイアナの隣、
ベネズエラの首都カラカスを目指すわけだが、
またこれが ガイアナとベネズエラを

直通する道がない。



仕方なく迂回して一度ブラジルを通ることになるのだが、
ブラジルに出るまでのガイアナ側の道が、

とんでもない悪路 だという。



(現在はバスも通る舗装路になったそうだが)
1999年当時、ここはまだ未舗装で、
公共のバスも通らない、いや通れないような、ぬかるんだデコボコ道だった。




どうしても通りたければ

不定期で通る 大型トラックをヒッチ するしかなく、

運よくそれに成功したとしても、

道がぬかるんでいない 乾期で3日

雨期だと1週間 くらいかかるかも…

と、かの「地球の歩き方」に書いてあったのだ。
































ここまで来るのだけで10日かかってるのに、

さらに1週間かよ。
































そう、
ロビン戦法ナンバー4
「観光は雨の少ない乾期に」 なのだが、

そのときこの一帯は ド真ん中の雨期 だった。




この後ベネズエラの「世界一高い滝」、
エンジェル・フォールを見たかったので、
どうせなら水が多い時期をと、計算ずくでここにいたつもりだったが、

完っ璧に裏目 に出とるじゃないか。















































か、体が…動かんばい!!

































誰も覚えてないようなサンデーのマンガをマネしたくなるほど、
移動することを体が拒絶していた。






マナウスに着く前も含めたら、
船・船・船で
既にトータル20日間以上移動している。




もーう沢山だ。
もーう飽きた。




移動ばかりだと、ほとんど変化もないクソ面白くもない景色を、

何十時間という単位で
ぼっへーっ

見つめ続けなきゃならんのだよ。



あなたは1日中ボケーっとして過ごしたこと、ありますか?
なに。ある?



じゃあそれを2週間も続けたこと、ありますか?

絶対 バカになる ぞ。




そこからさらに1週間続けたら、廃人になる んじゃないか?

しかも、体力的にも一番ハードな感じがするので、

アタマが狂う上にケツも 痛くなる。

悪いことずくめとはこのことだ。






この6年後に訪れるアフリカでは

移動は全部そんな感じ だったので

今思えば そこまで大変じゃない 気がするのだが、

その時はなんというか、移動という行為が完全に胃もたれしていたのだ。




ノーモア移動ッ!!




TVでゆで卵ゆで卵言ってたらみんなして差し入れに持ってくるので、

正直ゆで卵キライ になっている坂東英二みたいなもんだ。





では、

「同じルートを空から行く」 という選択肢もあるのだが、
コレがまたみんな考えることは一緒らしくて、
週2便しか飛んでいない小型飛行機は、いつも予約でいっぱいなんだそうだ。
問い合わせてみたら、空いているのはどうも2週間後から。




ちなみにガイアナは、
4日も居るとやることがなくなるくらい退屈で、
しかも、

個人的には町の人々の感じが 南米で一番悪かった国 だ。

そんな国であと2週間も待つってのは、ちょっと考えられない。




そもそも

2週間も待つくらいなら、

1週間かけて移動した方がエエじゃろ。







来た道をぐるーーーーーっと回り込んで

べレン → マナウス → ボアビスタ と戻っていくことも可能ではあるが、

わしの旅は 後退のネジを外してある ので、

それもイヤ。


「来た道を引き返す」 なんて オカマのやること だぜ。

だいたいそのルートこそ オーバー2週間コース じゃねーか。






・・・
そんな感じで入ったら最後、
なかなか脱出ルートが見いだせないギアナ三国ではあったが、

さすがに 国際便 の飛行機はしっかり飛んでいるので、空路はある。



ただ、これまたお隣さん同士のくせに

ガイアナ ⇔ ベネズエラ 間には 直行便がなく

間にある小さな島国、

トリニダード&トバゴ
 を経由しなければならなかった。



















トリニダードなどもちろん行ったことはない。
できるだけ貪欲に、いろんな国を見て回りたいわしは、
こりゃむしろチャンスだぜラッキー、ぐらいに思った。





ところが、一つ問題が。





トリニダード&トバゴ入国には、

日本人はビザが必要なのだ。





そして





ガイアナにトリニダード&トバゴの大使館・領事館は…






























ない。










































その国に該当する大使館がなくても、
旧宗主国の大使館があって、そこがビザ業務を代行している場合もある。




例えば
西アフリカならフランス大使館がトーゴのビザを出していたりする。
ガイアナもトリニダードも旧イギリス領だから、
こういう場合はイギリス大使館がビザを出してくれる可能性が・・・。




だが、ガイアナにある

ブリティッシュ・ハイ・コミッション

※ イギリス大使公邸みたいなモノ。
しょっぱい国に設置されているソレは、大使館業務も行っている場合もある

では、トリニダードのビザは発給しておらず、 秒殺。





ガイアナもトリニダードも旧イギリス領だから、
国民同士はお互い行き来が自由らしく、
「ビザって何?」 みたいな感覚らしいのだ。






じゃ、じゃあトリニダードの空港に着いた時点で

アライバル・ビザ
 は取れるんじゃないか?
※ 空路到着時に空港でとれるビザ。
  おカネはかかるが、事前にビザを取る必要がないのでラク。



と思ったのだが、それも NO。





ちっ。





ならばトリニダード入国はあきらめ、そのままベネズエラへ飛べばいいか、
と思いきや、





飛行機を乗り換えるには、

必ずトリニダードに入国しなきゃいけない 

というのだ。
アメリカと同じように。











で、もちろんその際には 通過ビザ が必要ですよ。 と。




通過ビザ は空港で取れるんですか?



取れませんよ。 と。































どうせえっちゅうの???









































「需要がない」 ってのは恐ろしいことで、
調べによると、
ガイアナから飛んでいる国際線は


ジョージタウン(ガイアナ) ⇔ トリニダード


の他に、


ジョージタウン(ガイアナ) ⇔ バルバドス


ジョージタウン(ガイアナ) ⇔ マイアミ(USA)



この 2本のみ。




ならば バルバドス(という島国です) 経由じゃっ!!

バルバドスならビザは不要!!

カリブ海クルーズの拠点イエーイ!!




・・・と思ったら



その便、 こんなルートを通る んだと。




で、

飛行機を乗り換えるには、

必ずトリニダードに入国しなきゃいけない 

ですよ。と。



もちろんその際には 通過ビザ が必要ですよ。 と。




通過ビザ は空港で取れるんですか?



取れませんよ。 と。





























どうせえっちゅうの???





























っっっこうなったらマイアミッ!!
やっぱ頼りはUSA!!


と思ったのもつかの間、
その便もまた、一旦トリニダードを経由してアメリカに向かうらしい。



要は、
ガイアナから出発する飛行機は

全てトリニダードを通過する という事だ。





そのためには

必ずトリニダードに入国・・・(以下略)










ということで、
出す案出す案が全て

宇宙刑事ギャバンの蒸着タイム
 よりも速くツブされ、

リアルに行き場を失った感じのわし。



もちろん 海路もない そうだ。


日本人のわしが言うのもナンだが、

お隣同士仲良くしようよ。










「だったら例のあの陸路を行くしかないのか」



と考えればよかったのだが、





漢(おとこ)が一度

「あきらめる」と決めたのだっ!!

何が何でもあきらめぬくっ!!







と、

明らかに間違った方向 に

漢(おとこ)らしさのベクトルが向けられ、
わしはどうしても飛行機でここを出なければ気が済まなくなっていた。





だが、
現実問題としてガイアナを出るルートは全滅。





ならばっ
ならば!!


スリナムに ちょっと戻って 、そこから飛行機を使えばいいじゃない。

距離もそんなに変わらんから、値段もきっと・・・







と、

中途半端な妥協案 を思いつくわし。





さっき 後退のネジがなんとか 言ってた気もするが、

漢(おとこ)は過去に縛られないッ!!







わしは 血の涙を流すフリをしながら、

ほいほいとスリナムに向かって戻り始めた。




だが、心の底では泣いていたのだ。


「来た道を引き返す」 ということは、
漢(おとこ)の信念を敢えて曲げる、苦渋の決断。



普通の旅行者には何でもないことかもしれないが、
個人的には屈辱の後退劇だった。






























結局2日かけてスリナムに戻ってきたわしは、
早速旅行会社に飛び込んで、航空券の手配をお願いした。





ガイアナで調査した結果、

スリナムからは オランダ領のキュラソー という島経由で、

やはり同じような脱出フライトがあるらしい。



キュラソーはオランダなので、

素晴らしいことに 日本人はビザは要らない。



トリニダードと違い、
立ち寄るのも自由、
乗り換えで強制的に入国することになっても、問題なしということだ。





これでようやく脱出できる・・・





距離的に遠回りになった分
ガイアナ発より値段は張るが、この際しょーがないだろう。





さっそく予約を入れようとパスポートを差し出すと、







「あら? あなた日本人なのね。

日本に帰るチケットは持ってるの?




「いや、持ってないけど・・・」




「だったらチケットは お売りできないわ。

そういう決まりなの。






























何ィ?






























ちょちょっ、 まあ落ちつけよ。

聞き違いかしら? 何言ってるかわかんねえ。 















「飛行機の 片道チケットなんてありえない わ。

キチンと最後まで、通しで買ってもらわないと。」





そ、それって日本までのチケット買えってことか?
使わないのに?




「じゃ、じゃあ
スリナム ⇔ キュラソー ⇔ ベネズエラ の往復ならいいでしょ?
それなら何も問題ない・・・」





「あなたスリナムで 働いてる人?

外国人でも、ここに住んでいる人でなければ往復はダメよ。

「その人が住んでいる国までルートがつながっていなければ、
航空券は発行できない」


そういう決まりなの。






























そっ、そんなバカな・・・

































飛行機のチケットの有効期間は、 最長で1年だ

だから、1年以上旅しようとか、留学しようとかいう人間は、
たいてい片道チケットで飛んでくる。



まあ、 序章で説明したようなルール >> があるために、
片道で乗るには多少の工夫が必要になるが、
日本行きのチケットを握りしめて無期限の放浪に出る奴なんて

 まず居ないのだ。




わしも world2 のスタート、エクアドルには飛行機で入ったが、
持ってたチケットは 日本 → アメリカ → エクアドルの 片道



やはりそこは日本で乗るときに突っ込まれたので、
その場で エクアドル → コロンビア の片道 を買い足して、

「これでエクアドルまでは行っていいでしょ」

と言って乗り切ったのだ。
※ そのチケットはのちに払い戻し。



エクアドルの前にアメリカを経由した時も、
わしがエクアドル行きのチケットを持ってたから、
全く問題なく入れてくれたぞ。




繰り返すが

出ていくことが決まっている人間なら、

入れてもいんじゃね?」

が、空路通関の基本精神のハズなのだ。













わし、スリナムから出たいって言ってるのに…











なんで邪魔すんの???


好きなの?わしのこと。

























上のよーな内容の話をさんざん旅行会社のおネエちゃんに説いて聞かせたのだが、
よほど理解力がないのか、

おネエちゃん頑固一徹 NO。





「ねえ〜だってわし出ていくんだからいいじゃ〜ん。
スリナムの外で悪さしよーがのたれ死のうが、
キミらに何の害もないじゃーん。」




と もっともなこと を言ってもムダ。




「だって、片道欲しいなんて人、今まで 見たことないわ。

ここでチケット買う人は、みんなスリナムに戻って来るもの。」









そ、そりゃあそうだろ・・・!!








この国で飛行機に乗る人間なんて相当の金持ちスリナム人か、
外国人なら大使館かなんかの駐在員だろう。
そりゃあみんなスリナムに帰って来るわっ!!





ただでさえ旅行者が滅多に来ない国だから、

ここから外国に飛び立とうなんて旅行者 は、

それこそレアな存在だろうよ。

しあわせのくつ ぐらいレアだろうよ。

見たこともないんだろうよ。






でもっ!!



だからって世界の常識からハズれるような、無意味なイジワルはやめてっ!!


「前例がない」 なんて言葉の魔法にダマされないでっ!!

さあ一歩前へ!! 勇気を出そうよ(泣)!!










だが、拝み倒そうが泣き落とそうが、
どうもこの店はチケットを売ってくれる 気配がない





「正しいことをせよ」 と、大人たちは言う。

だが、正しいことが通らない場面の方が、世間には多いのだ!! 圧倒的にッ!!







ちなみに恐る恐る日本行の片道チケットの料金を訊いてみたところ、

スリナムから ベネズエラ → アメリカ と通って 

しめて 1500ドル (当時で約16万5000円)。




さすがに 「ちょっとラクがしたい」 程度の事で出せる金額ではない。
ぬうう。






こうなったら!

こうなったら 無法には無法で勝負 じゃっ!!










わしは 「ダメだこりゃ」 と

いかりや長介のモノマネをしながら、一旦旅行会社を出た。



そのときのわしは、既に次なる作戦を発動していたのだった・・・

(つづく)



































わしはメシでも食いながらその辺をプラプラしつつ、
1時間くらいしたら何食わぬ顔で戻り、


「日本行きを国際電話で手配してきた」

という設定で押し通すことにした。




もちろんこれは大ウソ。

ダメ元にも程がある力技 、

泣いてる子供のグルグルパンチ並の、
作戦などと呼ぶに値しない特攻だ。




・・・いや、いくらなんでもコレは・・・


と自分でも思うのだが、

なんとこの バレバレのウソが通り

チケットが発給されてしまうのだから 世の中は面白い。




さっきあんなに頑なに発給を拒否っていたおネエちゃんが、
いともあっさりこの虚言を信じたのだ。




わしが言うのもおこがましいが、

もうちょっと人を疑えよ。







ともかく、
これで一件落着、
ヒコーキに乗れてメデタシメデタシ・・・・



ではなかった。




本当の戦いは、ここからだったのである。






























スリナムは何気に かき氷が世界一ウマい

わしは祝杯がわりに市場に向かい、キンと冷えたかき氷をかき込み、
すっかり満足して宿に戻る途中だった。







と、




























ふっと背後から、わしを呼びとめる声がした。
































スリナムに知り合いなんぞ居ないハズだが・・・?




振り返ると、 さっきの旅行会社のおネエちゃんだった。





そういやさっき旅行会社の前を通った気がするが、
それに気づいて、店の中から追いかけてきたっぽい感じだ。




まっ、まさか

「この後お食事でもどうかしら?うふ。」

的な展開ですか!!?

ツイてる時は続くねえ!!





「ハァハァよかったわ、追いついて。」




「ははは。慌てなくたってボクは逃げやしないよハニー。
どうしたんだい? 息切らして。 
そんなキミもまたキュートだがねぬふっふ〜ん。」




「そう言えばわたし、あなたの日本行きのチケット、まだ見せてもらってないわ。

確認しないとダメだって、ボスに言われて・・・」






























いっ、今さら・・・?



























「いッいや、国際電話で予約しただけだからチケットなんか無いよ。」








ダメよ。 証拠を見せてもらわないと発券できないの。

そういう決まりなのよ。













・・・









・・・





























ありません(投了)。





























やっぱりね、といった雰囲気で、
おネエちゃんはわしからさっきの脱出チケットを奪い取り、

ボールペンで上から でかでかとバツを 書きなぐった。




これは 無効です って意味なんだろーが、

ヒトのもんを・・・ おいっ!!
道の真ん中でっ!!
真っ昼間から大胆なっ!!





オレたちにできないことを平然とやってのけるッ!!

そこにシビれる!

あこがれるゥ!!!












こんな短期間で彼女は 「人を疑う」 という事を覚えたのね。
アタクシ嬉しいわ!! あなたの成長ぶり!!(泣)





























・・・わかった。

なんかもう、 全てがメンドくさく なってきた。



そんなに日本日本言うなら、しょうがない。

日本まで通しで買うよ。 1500ドル出すよ。


結局 カネで解決するのが一番なんだ。

日本人ナメんなよコノヤロウ。































「残念だけど、それもできないわ。

あなた、航空会社の ブラックリスト に載ったから。」













































え。















































ブラック…








































いや

ブブ・・・ ブラックリスト って、

あの 犯罪者とか が載るやつ??




このわしが・・・
野菜を食べる時も「ごめんなさい」って思うほどやさしいわしが・・・

危険人物扱い ですかっ!!??































どうもスリナム人にとっては、

「片道のチケットで飛行機に乗る」 というのは

犯罪的にありえない行為 だったらしく、


「この日本人は、不当な方法でそれを入手しようとたくらむ 悪い人」 

だと判断されたらしい。








謝ろうが、この場で土下座しようが丸坊主にしようが、

もうおしまい。



クツでも舐めれば
この旅行会社のおネエちゃんの気分は多少スカっとするかもしれないが、

大本の航空会社が わしを乗せない と決めた以上、

わしはもう、空路でスリナムを出ることは決してできないのだ。一生



ついでに、

払ったカネは返ってこない という。


ざんねーん。


































いや

おかしいだろ(怒)。































ただ 「飛行機に乗れない」 だけならネタとして笑って済ませたかもしれんが、

「カネが返ってこない」 

というポイントが、わしの心に火を点けた。




このおネエちゃんにはお留守番のトモちゃん(7歳)程度の権限しかないので、
彼女に食ってかかっても無駄だ。




だが、絶対にこのままでは済まさん・・・
































もう日も暮れかかっていた。

わしは大急ぎで、ある方角をめざして走り出した。






郵便局の裏手の路地を進んだ先にある、
スリナムにだけなぜかある、

ギアナ三国唯一の 日本大使館 へ。








「こうなりゃ 圧力じゃ。 

お上から圧力をかけてもらって、

なんとかしてもらうんじゃ!!」









復讐(リベンジ)を誓うわしの体には、

「他力本願」 という名の蒼い炎が燃え盛っていた。











































「あれ? どうしたの??」




「いや、

ちょっと ブラックリストに載っちゃって・・・」






























ケンさん(仮名)は、
旅立ったはずのわしがなぜか戻ってきた事にまず驚き、
その理由が

予想だにしない内容 だったので、更に驚いた。















実はわし、ガイアナに行く前に、ここの大使館は一度訪問していた。




そしてそこの職員の一人、ケンさん(仮名)が

超ド級のいい人 で、

こんなタダのいち旅行者のわしを自宅に招待してくれたり、
メシをおごってくれたりして、

たいへんイイ思いをした のだ。

そのわずか1週間ほど後の、早すぎる再会だった。






誤解の無いように書いておくが、
日本大使館は旅行者を接待する機関ではないので、
訪ねて行ってもメシをおごってくれたり、

話し相手になってくれたりなど、普通はしない。




むしろ仕事もせず放浪なんかしているバックパッカーなど

昆虫のような扱い を受ける場合や、

ヒドい所なんかは情報収集とか手紙の受け取り程度の軽い用事では

門前払い を食らうことさえある。

パスポート失くしたとか、よほどの緊急事態でないと、
いち旅行者ふぜいなど相手にすらされないのが普通なのだ。




だが、

発展途上国で、

かつ旅行者も企業もほとんど訪れない国




こういう国の日本大使館の職員は いい人 な確率が非常に高い。




穿った見方をするなら

いい人だから こんな誰も行きたがらない国に送り込まれてしまう

とも言えるが、
ともかくも先日わしの旅話を熱心に聞き入ってくれたケンさんとは

もはやダチ公 と呼んでいいほど親密になっていた。 

…そう一方的に思っていても許してくれそうなほど、
ケンさんはいい人だった。




わしゃ

ネコ型ロボットに泣きつくメガネ 

のような気軽さで「なんとかしてよ」とか言っちゃったが、

よく考えたらエラい人に対して すげえ失礼 な話だよな。




でも、さすがはいい人。

「ブラックリスト」という単語に尋常でない食い付きを見せたケンさんは、
わしの一連の話に、熱心に耳を傾けてくれた。



そして、
有り難いことにケンさんの意見もまた


「それは おかしな話 だね。」


という結論。




「意気投合」ってのは、こういうものかと実感した瞬間。
大使館も業務終了間際だというのに、
早速ケンさんは問題の旅行会社に連絡を取ってくれた。



だが、旅行会社は所詮「チケットを売るだけの立場」。
トモちゃんのお兄ちゃん(10歳)程度の仕事ぶりだ。
全く話にならないので、今度は速攻で航空会社にTEL。






「あー。 日本大使館 なんすけどー。 社長出して。







さすがはお役人様、 話がえらいスムースだ。







ところが、

そのわしを犯罪者扱いしている

アルバ航空(ALM) という航空会社の社長は

全く話のわからないアホ で、

いっくらケンさんが説明しても効果なし。




ここに書いてあるようなこと >> は

小学生でも理解できる話 ですよねえ??



聡明なる読者の方々の頭脳なら、
パツイチでおわかりになりますよねえ?




なのに、




「片道では飛べない決まりなんだから仕方がない。
その日本人は、ルール違反をした犯罪者だ。

もう話すことは無いッ。




ブヅッ。




と、あろうことか

大使館からの電話をガチャ切り しやがったのだ。






権力に屈しない姿勢はある意味リスペクトだが、

いや、 バカだろ お前ら。 ALMッ!








































この 「航空券に関する認識の違い」 はスリナム人全員に浸透しているらしく、

ガチャ切りされてちょっとキレているケンさんに向かって、

日本大使館で働くスリナム人職員までもが



「だって仕方ないですよ。そもそも

片道しか持っていない彼(わし)を入国させたアメリカが悪い し、

そのあとの エクアドルもいけなかった のよ。」


とか ヒトのせいにする 始末だ。
































いや、だからなんでわからんのだ! うぬらは!!































わしも、もちろんケンさんも納得がいかなかったので、
翌日、

国際航空運送協会(IATA)

のルールブックを取り寄せて調べてみた。




その本には各国、

「入国時に必要な条件」 が羅列されているのだが、


ほとんど全ての国が

「空路入国の場合、

入国時から○ヶ月以上有効のパスポートと、

第3国へ出国するための航空券が必要」



とあるのみ。




唯一ジャマイカだけが

居住国へ帰国するための航空券が必要」

とあったが、




アメリカもエクアドルも、もちろんスリナムにも、

そんな条件はひとっっっつも 書かれていないのだ。
























それならばとケンさんは、別の所に電話をかけ始めた。



今度の相手は スリナム航空 



実はスリナムを脱出するこのルートは2社が運行しており、
スリナム航空は
日本大使館の職員が帰国やアメリカへお出かけの際に利用するという、

いい関係 の航空会社なのだ。




そっちならきっとわかってくれるかも・・・!!




またも 「社長いる〜?」
で始まったケンさんの交渉だが、
それでもやはり答えは
「NO」だった。







だが、さすがに日本大使館と仲良しのスリナム航空だけあって、
社長はきわめて紳士的に、キチっと説明してくれたそうだ。



「IATAのルールでは確かにそうなっている。
それはわかるが、
スリナムの法律が片道はダメだと言っているので、仕方ないのだ。
だからその日本人にチケットを売るわけにはいかないのだよ。」



と。




















全く信じがたい話だが、

スリナムでは 片道チケットはマジで犯罪 なのだ。































「片道はダメ!! ゼッタイ!!」






























「片道やめますか? それとも 人間やめますか??































・・・



口惜しいが、 法律ならば仕方がない。

いくらなんでも、立ち向かう相手が強大すぎて話にならない。
残念だが、もう他のルートを検討する以外にないだろう。



進むも地獄、戻るも地獄…
どっちにしてもまた2週間近く移動しかしない日々が始まるのだ。
はぁ・・・

























っと思ったら、

なんか知らんが ケンさんが燃えてるっ!!!





























ここまで言われて まだあきらめていない のか!

負けず嫌いなのか!



「あきらめたらそこで試合終了」 という有名な言葉があるが、
正しくは 「フエが鳴ったら試合終了」 だ。
フエならとっくに鳴ってるし、みんな後片付け始めてるくらいの勢いなのに…






無言で受話器を持ち上げると、
ケンさんはどこかまた別の所に電話をかけ始めた。






会話が漏れ聞こえた感じだと、





























まさか・・・




























ままままさか・・・































スリナムの



法律を作った人 



のところに



 直接電話 しとるっ!!!






























スリナムは1975年に独立した、とても新しい国。


なので、
その時法律を作った担当者が、

まだ 現役バリバリで生きている のだ!!




しかも、
スリナムは(当時)人口40万人の小国ッ!!



大使館職員ぐらいのレベルになると、
大統領だの大臣だの、
国の上層部の人間とは みんな顔見知り なんだそうだ。






























だからこそ、

だからこそムチャなお願いも聞き届けられる可能性があるというものだが、

ケンさん曰く、






























ケンさん曰く!!





























「あのさー日本人の旅行者が困ってるんだけどさー。


悪いんだけどちょこっと 


法律変えてくれない?










































そしてアンサー!!































オッケー。

そいつマジ 無事出国させるから。チェケラ!!」






























ガチャ。



































なんだこの会話。

































数分後、

先ほどの スリナム航空 から

「チケットを売りましょう!!」 

と、 嫌に愛想のいい 電話がかかってきた。







ついでに料金は ALMからもらう ので

いいですよ、と。





間接的に、ALM(アルバ航空)は返金に応じたカタチになるのだ。

「もう話すことは無い」

なんて言ってたのに・・・



裏でナニがあったのか、想像すると恐ろしいものがる。



ブラックリストからは、外してくれないみたいだけど(涙)。
























こうしてめでたく、
本当に正式に脱出チケットを手に入れることができたわしだが、
まだ一抹の不安みたいなものはあった。



スリナム人の航空券への認識があんな感じだとすれば、
チケットがあっても

空港で止められる可能性 が、まだ残っているからだ。









そこはケンさんも気になったようで、

さっきの 法律のおじさん の所に連絡して、

念には念を入れて 手紙を送ってもらった。



読めないがそこには






























「この日本人を問題なく出国させなさい。

特例だかんね。文句言ったらコロス。」






























みたいなことがオランダ語で書かれていた。
これを持って空港に行けと、そういうことらしい。




更には
行った先のベネズエラで何か言われたら困るだろう

という 無駄な心配 までしていただき、

わざわざベネズエラ大使館に連絡して、
第二の手紙を作成してもらうという念の入れよう。




ベネズエラ大使館は日本大使館と同じ建物の中にあって、

特に仲良し らしい。






「この日本人は私の アミーゴぢゃ。

決して怪しい者ではないし、悪させんから、噛み付いたりしないから

ベネズエラに入れてやってちょ。」


てな感じの手紙も 大使殿直筆 で頂いてしまい、


もはや使者ですよ、わし。
小野妹子ですよ。
























その 「2通の手紙」 は、

わしの World2 最大のお宝 として、

今も大切に自宅に保管されている。



水戸黄門の印籠よりも強力な最強の御守りを携えて乗りこんだ割には、
結局スリナムを出る時もベネズエラに入る時も

空港では 何一つチェックはなかった のだが・・・


































それにしてもたった一人の旅行者のために、
法律まで変えてしまうとは・・・ 
恐るべしお上の力ッ!!





つうか・・・






ネタとしてオイシイんですがねえ。



大使館の方々のご尽力、
ホントに嬉しかったんですがねえ。































そこまでされると 逆に引くよ。































ALM(アルバ航空)はカリブ海の島々をチョコチョコ結ぶ、
非常に規模の小さいローカル路線。

だからもう 利用する機会は二度とない(断言)。




だが、
世界の片隅に自分だけは一生乗れない路線があるという事実は、
落とした財布の中身を誰かに使われているような、
別れた彼女と知らん男が付き合っているような、

どうでもいい後味の悪さ を微妙に与えてくれている。



※ ALM(アルバ航空)はそのすぐ後、2001年に倒産。
  わしだけでなく、誰もが一生乗れない路線になってしまった。



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