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ジッチャンの名にかけて。
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2-10 「手錠とわし」

エル・バリェ( パナマ)


よく人に 「もう一度行きたい国はどこ?」 と聞かれる。
わしはそんな時、 「特にないですね。」 と答える。




別につまんなかったワケではない。
むしろ逆。
どの国も、もう2度と行かなくてもいいくらい満喫してから出るからだ。



このHPを見ているととてもそうは思えないかもしれんが、
わしは訪れたすべての国が好きだし、そこの文化をリスペクトしている。
かの地を旅させてもらっていることに感謝し、生きていることに、また感謝する。




ただ、突然目の前に悪魔かなんかが現れて、
「1か国だけ滅ぼしてやるから、選べ。」
と言われたら、
わしは迷うことなく パナマ と答えるだろう。
誰も「好き」とも「嫌い」とも言わない、レタスみたいな存在のパナマを、だ。



パナマといえばパナマ運河だが、それ以外に「何か」を思い浮かべられる人は、
実際行ったことがあるか、変態レベルの地理好きか、どっちかだろう。



パナマではこーいうクナ族が住むサンブラス諸島や、
危ないけどパナマ・シティ旧市街なども見どころとして数えられる。
もっと危険とされるコロンって町もあり、
何気に観光資源は無いようで、実は有る国だ。



中でもイチ押しの見どころ、
「世界にここだけ」 と言っていいんじゃないかと思えるのは、

エル・バリェ(エル・バジェ)という名の高原リゾート。



高原リゾートなど世界に数あれど、ここのオリジナリティはスゴイ。



だいたい村の入口のこの山の連なりが
仰向けに寝ている女の子に見えるという無理矢理すぎる導入から始まり、

村の奥には黄金のカエルという名の 黄色いカエル がいたり、

幹が四角い木 が生えていたりと、



正直 珍しいけど・・・




と思わざるを得ないようなしょーもない代物で攻勢をかけてくる、
唯一無二の消化不良感が満喫できる穴場なのだ。



これがその「幹の四角い木」。
ネットで調べてもあんまり出てこないので、
最近は切られたのか、倒れたのか・・・



おっさん一生懸命 「直角」 を示してくれるのだが、写真では伝わらん・・・




まあそんな微妙な観光地ではあるが、高原リゾートだけあって
トレッキング的なものも、それなりに楽しめる。
時期的に雨期だったので高原はひたすら台風のような雨だったが、
わしはせっかくだからと山道を歩いて、
時にはぬかるみで滑ってコケて
なんだかんだでけっこう楽しんだ後、帰路につこうと歩き出した。







と、その時。
村の入口、道の反対側の警察署から手招きされ、

警官たちから 怒涛のような質問 が浴びせられた。



どうやらエル・バリェは隣国コスタリカとの国境に近く、
ジャングルを通って不法に越境してくる中国人が後を絶たないんだそうだ。
わしもそれに見えたというのか!?
失礼な話だ。



















確かに日本人は中国人に見えるかもしれん。
それに、持っていた荷物はコンビニのビニール袋だし、
パスポートはコピーしか持ってねえし、
ついでにさっき山ン中で転んだ時、自分じゃ気づかなかったが、

キレイに半身だけドロまみれ で、

あしゅら男爵 みたいな恰好になっていたらしい。































・・・ 誰がどう見てもそういう輩 だコレ。





































こんな が歩いてきたら、

まあどんなボンクラな警官でも とりあえず職質 するだろう。







奇跡的に条件が揃い すぎて、今日のわしは

ケロモン (警官を惹きつけて止まない分泌物) が出まくっていたらしい。






一応、パスポートのコピーはあるし、
パナマシティのこういう宿に泊まっていること、
パスポートは預けてきたことなどなど、
1コ1コ丁寧に説明したところ、
警察のダンナがどこかに電話をかけた後、
なんとか解放してはもらえた。





しかし、防犯のためとはいえ
パスポート持たずに市外に出るのはマズかったな・・・
メキシコシティでの反省が全く活かされていない。



強盗を意識するあまり、
出かけるときはコンビニの袋しか持たないと決めていたが、

それも かえって怪しまれる 原因になるらしい。

難しいものだ。





まー何事もなかったんだからええじゃないか。

どうにかこうにか帰りのミニバスに乗り込むと、
いろいろ疲れたせいか、ストンと眠りに落ちてしまった。
パナマシティまでは2〜3時間ほどの道のりだ。
目覚めれば、もう到着といった感じだろう。





























「ガクッ」
































ところが、ミニバスの急停止するGで目が覚めると、
まだ全然、途中の幹線道路の真ん中だった。




なんだかえらい渋滞しているな。




警察が道を塞いで、どうやら検問しているようだった。
来るときはこんなのなかったのでそこら辺の奴に聞いてみると、
どうやらなんかの犯人が逃げている所で、そのための検問だそうだ。




さすがパナマ。やはり治安は悪いのう。
つまりついさっき強盗か殺人か、
そんな凶悪事件が近所で起こったばかりなのだ。



ま、わしには関係のない話だし、時間かかるならもう一眠りしてよっと。



再び眠りに落ちようとしたそのとき、
わしらのミニバスにも警官が乗り込んできた。
警官は車内をキョロキョロと見渡したあと、
運転手に何やらボニョボニョ告げて、乗客に向かって手招きを始めた。





























・・・






























・・・・・・・・・





























ってオレ?





































交代を告げられた時のキング・カズのように、
わしは 「まさか」 というリアクションで自分を指差した。







しかし・・・






忘れてたけど今わし こんなん だもんな。



そりゃ、 訊きたいことは山ほどある だろう。





やれやれ。
まーたさっきみたいに質問攻めかい。 めんどくせえな。
































ガチャ












































ぬえええええええええ!?






































めんどくせえ質問など いっこもなく







































いきなり問答無用で手錠をかけられ、

そのままパトカーで連行ッ!!
































にっ、逃げた犯罪者は???
わしみたいな小物にかまってる場合じゃねえだろっ!!

なにその 中途半端な職務への忠実ぶり








パトカーはサイレンを高らかに鳴らしつつスイスイと検問を突破して、
来た道を戻りながら
ハイウェイをオーバー150km/hでスッ飛ばしていく。
方向が逆なら嬉しいのだが、目指すパナマ・シティはどんどん遠ざかる。



警官はヘラヘラ歌いながら、ゴキゲン で運転している。
それを見ると、

「検問に飽きたんでドライブしたくなっただけじゃないか?」

と思えてしまうが、
そのおかげで緊張感というか悲壮感みたいなものはその時はなく、
わしはわしで申し開きもせず、余裕で手錠の感触を楽しんでいた。
※ この時は、両手にかけられています。



変なプレイで使った経験もないので、これが生まれて初めての手錠。
わしはケツのポケットからメモ用紙とペンを取り出し
めったに身に着けることのできない極上のアクセの姿を、

できるだけ詳細に スケッチしよう と試みた




手錠は重たいが意外にも 手首の可動域は広く

そのくらいは難なくできる。
日常生活にさして不都合はないくらい、様々な動きが可能そうだった。






とりあえず手錠が 台湾製 だということだけは判明したころ、

パトカーはハイウェイを降り、
どこかもわからない町の、割と大きめの警察署に到着した。









入口周辺には、何やら 報道陣が大挙して 待ち構えている。

そういえばさっき、「犯罪者が逃げてる」 とか言ってたっけ・・・
それか。




























・・・!





























おい・・・































そんな所へ
サイレン鳴らしたパトカー が入ってくればっ!!



















































バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャ
バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャ
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バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャ



※ 写真はイメージです































パトカーを降りた瞬間、

フラッシュの洪水 わしの全身に浴びせかけられた。





ちっ・・・ 違うっ!!

わしは・・・なんか そうだけどそうじゃないっ!!





思ってはみても、
手錠がかかっている以上、言い逃れができない



こんだけ記者がいれば1人くらい

「あれ? コイツ違くね?」

みたいに思う奴がいてもよさそうなのに、
みんな夢中でシャッターを切りまくっていて、

誰一人 間違いに気づいてくれない



誤解といえ、
ここまで脚光を浴びる経験はもう 生涯無いだろう




恥ずかしいわまぶしいわで
君らもフィルムのムダだよと 頭を低くして 歩くのだが、

よけい犯罪者っぽく見えるっつーの!!

ダメ押しで警官が 手首に布かけて くるっつーの!!





わしはそのままトボトボと警察署内に連行された。
このあと本物の犯人が捕まったかどうかはわからないのだが、
フライングしてわしの写真を記事に載せてしまった新聞も、
もしかしたらあったのかもしれない。


いや、ラテンだから 十分ありうる。






























警察署内に入ってようやく静かなトコロへ来られた、と思ったら、
今度は事情も聞かず、

リアルな留置所 がわしを待っていた



片腕(右)だけ手錠を外されたので

「あ、オリの中では自由なのかな?」

と思ったのだが、
オリの中にはなぜか 

バレエの練習で使うようなヨコ棒 

が備え付けられていて、
そこへ








































ガチャ































連結ッ!!

いやいや既にオリん中だし、逃げないって!!






コンビニのビニール袋だったのが幸いして
持ち物を調べられたりとかは一切されなかったので、

とりあえず落ち着いて、カメラで 記念にパチリ。
※ 写真はその時のもの






しかし・・・この繋がれ方Ver.2はけっこう 精神にくる ぞ・・・








さっき両手にかけられていた時

割と 自由を感じられた ものだった。

その気になれば 走って逃げることも できる、とさえ思った。

縛られても、そんなにイヤな感じはなかったのだ。




しかしコレは・・・飼い犬の気分というか、
腕の自由よりむしろ足の自由を奪われている。


一歩も動けないという事実に
ワキ腹がムズムズするというか、
ハミガキのチューブみたいに内臓ごと絞り出したくなるというか、
予想だにしない重さのストレスが、まさに腹の底から湧き出してくる。



昔、近所にやたら吠えるバカ犬がいたのだが

今ならそいつとも わかりあえる。

動物というものは、歩き回れないというだけで、

叫んでしまうもの だったのだ。




わしゃ犬なんか飼う気はないが、
本当に動物を愛するのなら、繋ぐのだけはやめた方がいい。かわいそうだ。
これからは繋がれている犬を飼い主に無断で解き放つ事業に生涯を捧げよう

と思うほど、この鉄の戒めからは 禍々しいオーラ を感じる。



ムズムズするからってヘタに動かすと、

手錠ってのは 余計に締まるつくり になっているらしく、

それがわかると身動きがとれず、なおさらストレスが溜まっていく。







しかも、
嫌がらせ軽い拷問の意味でもあるのか、

その繋がれたヨコ棒が 絶妙に変な高さ に付けられていて、



普通に直立した状態では手錠が届かない ので、





こう 立っていなければならない。






























じゃあ座ればラクなのかというと、



高さ的には このあたり であり、




手錠があると、どうしても こうなる。






































どっちにしろ
リラックスは 絶対にできない 体勢を強要されるのだ。

タダでさえイライラして落ち着かないのに、
いつまでここに居るのかもわからんのに、

こんな ジョジョみたいなポーズ は、ずっとは無理だろ。







意外にも座るより立っている方がラクというか長持ちするようで、

同じオリの中の 本物の犯罪者たち は、

みんなこの体勢で 立っていた。



こんな 面白おかしい団体 に、

半分色の違う中国人 が入ってくるもんだから、

みんなテンションが上がって、やたら話しかけてくる。

そこらへんはラテンだから、囚人といえど 極端に陽気 だ。














「げへへ。 おいチノ(中国人)、お前ナニをやらかしたんだ?」



「オレは、強盗だ。4回目だぜ。」



「おいチノ、気をつけろよ。 コイツは2人ブッ殺してるからな。 ぎゃははは。」
















って普通に 仲間扱い され始めているっっ!!!





勘違いなさっている読者の方がいたら困るので一応、再度説明しておくが、

わしは パスポートを持っていない というだけで、

ここにいる。





まあ国外での携帯義務に違反しているワケだから
わしに非があるといえばあるのだが・・・

こんな 関東豪学連 みたいな連中と、一緒にされては困るのだ。





ヘンにスペイン語が理解できるのが災いして、
ヤツらの話す内容といったらピーがあまりにもピーピーで、
こっちまでピーしたくなってくるピー




生き地獄・・・
いろんな意味でここから出たい。






そもそもエル・バリェなんかに行ったのは、人に頼まれたからなのだ。




ポパヤン事件で共に戦った強敵(とも)、ヒロさん&リエさん夫婦。
彼らが 「買い逃したお土産がある」
なんていうから、それの購入メインでやってきて、
四角い木とかカエルとかは、まあオマケのつもりで見に行ったと言ってもいい。



彼らに罪は全くないし、
出会って10年以上経つけどいまだに交流があるしお二人のことが大好きなのだが、


































彼らがカラんでいると、なぜかヒドい目にあう 気が・・・

































ベリーズで溺れたときも、
ポパヤンのときも、
そして今回も、
すぐ傍に、あるいは背後に、彼らの影はあった。



ついでに帰国後、彼らの住む山口・萩に遊びに行った時も、

日本列島全体が 記録的な大雪に見舞われ、

帰りの夜行バスが朝起きたらまだ広島だったというミラクルまで起きる始末。





繰り返すが彼らに罪はない。
もちろん恨んでなどいない。




だが・・・
この出会いがずいぶんと

激しい科学反応 を起こすのだけは、間違いないようだ。

































・・・
そんな事を考えるうちに、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
どのくらい時間が経ったのだろう・・・
時計を持っていないのでそれはわからないが、
感覚的には真夜中ぐらいか、そんな感じがした。




そういえば頼まれたお土産の置物は味があるというか、
先住民インディヘナの悲哀がよく表現されていて、
どことなくうら淋しい趣(おもむき)があった。




で、気が付けばそれと 全く同じポーズ で眠るという、

なんか皮肉な展開になっている。









「トイレに行きたい」



と言えば一時的に手錠を外してもらえるような、
けっこう待遇のいい監獄ではあったが、
こちらの言い分や要求は、全く通る気配を見せなかった。




「空港のイミグレに問い合わせてみろ」
「日本大使館を呼んでくれ」
「泊まってる宿に連絡してくれ」
「パスポートはそこにあるから」




と、
近くを警官が通るたびに懇願するのだが、




「今やってるよ」




ばかりで、一向に動きはない。
中には



「お前いくら持ってるんだ?」



と、明らかなワイロ目当てで耳打ちしてくる警官もいる。
が、こんな時に限って本当に5ドルしか持ってない
それを聞いた瞬間、

警官はわしに 興味をなくして 去ってしまうのだ。

そんな実にならないやり取りが、何度も繰り返された。




ついでに最悪なのは、唯一の身分証明書だったパスポートのコピーをも、
わしを逮捕した警官が持ったままどっか行っちゃったことだ。
大使館呼べとかその前に、日本人だという証拠が手元にない。




そもそもアイツ居ないと、

わしがどうしてブチ込まれたのか

その全容を知ってる人間が、 ここに居るんだろうか?

警官全員が 
「あのチノ誰?」
「誰かなんとかすんだろ」
とか思ってれば、そりゃ何を訴えてもムダなワケだ。





本当に調査とか、手続き的なことは行われているのだろうか?
いや、
日本人なら5分で終わらす仕事に、2日ぐらいかける連中のことだ。

まだ 「取りかかってすらいない」 というのが現実だろう。

あとどれくらい待てばいいのやら・・・。




いや、そもそも 待ってれば解決するのか? これ。

囚人の中にわしが増えたことなど
奴らにとってはチャーハンの中にごはん粒が1コ落ちたようなものだろ。
誰も気にしていない可能性の方が高い気がするぞ…

























不毛な思考のループにまたウトウトしかけた頃、
今度は突然、オリが開けられた。




やおら警官が一人一人をヨコ棒から外し始めたので
「おっ、釈放か?」
と思ったのだが、



今度は 後ろ手にガチャっと やられ、

全員、トラックの荷台 に詰め込まれて 護送。





・・・!
これは・・・




手錠が前にかかっていた時なら走って逃げられそうな気もしたが、
このVer.3、後ろ手だとそれは難しいことに気付く。
体のバランスは腕で取るものなので、それが思いの外うまくいかないのだ。
それに、このままだとメシも食えないし、立ちションすらできない。



みんなそのことに気づいているのだろう。
ショボいピックアップだから荷台から飛び降りる気になればイケそうだが、
誰もやらない。
横棒とどっちがマシかと言われると迷ってしまうくらい、

この繋ぎ方は 見た目以上にえげつなかった。




それにしても手錠っていろんな使い方があるもんだなあ。

今日は3通りも体験できて、たいへんラッキーだ(泣)

あとは警察官と1対1でつながれるパターンぐらいだな。






 あ、こんなのもあるか。
  (アイアン・マイケルさん)

どうせならそれらも体験して

グランドスラム
 といきたいところだぜ(号泣)。













トラックは数分走って、
なんか知らんがコンクリ造りの無機質な感じの建物の目の前で停まった。




まさか・・・

ガチの刑務所???



































どうやらそこは病院のようだった。



警官曰く、
今からわしらの メディカルチェック 行うのだと。

特にそこのチノが 麻薬をやってるに違いない と。



ち、違いないって・・・



ものすごい決めつけだな。
「巨乳はバカ」 みたいな。



一緒に護送されてきた 本格的なチンピラの人々 より、

わしの方が怪しまれている というのが屈辱的だ。





























病院は至って普通の病院で、
その普通の患者が待つようなホールで長椅子に座って、
順番を待たされることになった。

患者が全員手錠に繋がれている という点以外は、

ホントにただの病院だった。








順番が呼ばれ、わしはドクターと面会することになった。
「メディカルチェック」とか言っていたが
血を抜いたり尿を取ったりなどは一切なく、
簡単に懐中電灯の光を目に当てられただけで、
あとは医者の質問に答えるだけらしい。
ヤブ医者め。
こんな 雑な調べ方 でクロにされたらたまらんぞ・・・






脳裏を横切る不安。
しかし、
ここでヤブ医者ドクターの机に目をやると、



んん??




蜘蛛の糸が垂らされたような、一条の希望の光が。



楊枝とタバコの箱で作るオブジェ・・・って
このドクター・・・日本びいきかっ!?
少なくとも日本人の友達は居るに違いない。
ならばっ・・・!!







ここがおそらく勝負のキモとみて、
わしはまず、



「あ、日本のお土産っすねーゲヘヘ。」



と、さりげなく日本人であることをアピールした。




「え、キミ日本人??
日本人がこんなとこで何やってんの??」












「いやーちょっとパスポートを宿に置いてきちゃったんですよ。
それだけで捕まったんですよ。 無実なんですよ。

あとぼく サムライなんですよ 。」




































言うだけならタダ なのでどさくさに付け加えてみたのだが、

その効果は絶大だったらしい。



そりゃ大変だ。

じゃあ早速キミが泊まってる宿に電話してあげよう。番号は?」




と、ドクターはその場ですぐ
頼みもしないのにデスク上にある電話でわしの宿に連絡を取ってくれた。




「ニンジャ」 とどっちにしようか迷ったが、
やはり無難に(?)サムライでよかったか。
ともかく、
一晩かかっても何一つ進展のなかった事態が、
このたった一人の日本びいきのドクターによって
一瞬にして解決へ向かって動き始めたのだ。




そこからは実にスムーズだった。
宿のオバちゃんとも電話で直接話すことも許され、
わしの居ない間に新しく泊まりに来た日本人の旅行者とも話して、
彼にもう一度、全ての事情を日本語でも説明した。




有難いことに、
オバちゃんが身元引受人となって、これから警察署まで迎えに来てくれるという。
その時にわしのパスポートも持ってくるから、安心しなさい、と。



ううっ・・・夜中なのにスミマセン。



































つうか

たったのこれだけで済むことを

十数時間も引っ張るパナマ警察滅べ(怒)































こうやって何でも
「あとで」「あとで」 言ってるうちに、
やってる奴との差がギュンギュン開いていくんだろうな。
途上国がイマイチ伸びない理由は、そこにあるんたぜ。




手錠はまだ外してもらえないものの、
さすがに監獄に戻されることはなかった。
とりあえずはお迎え待ちということで、
警察署のオフィスみたいなところに連れて行かれたのだが、
そこでのパナマ警察の仕事ぶりもヒドいものだ。
夜勤の警官は全員でエロ本を回し読みしているという、

クロマティ高校 以下の堕落ぶりだった。









数時間後、
パナマシティの宿のオバちゃん、グアダルーペ(愛称ルーペ)が、
本当にわしを引き取りに来てくれた。
普通、宿のスタッフなんかが助けに来てくれるだろうか?
見るからに金持ちで、
道楽でパッカー宿をやってるからこその親切行動だろう。



偶然にもこの宿>>に泊まっていたことが、わしの救いとなった。
ホント、こういう国で頼りになるのは金持ちだけだと思った。
頼りになるから金持ちになれるのか。
そんなことはどっちでもよく、ただただルーペに感謝するばかりだ。




「はい、アナタのパスポートよ。」




後光さすルーペの手から、
念願の本物のパスポートが、青いお大事ベルトごと手渡された。
おお、これこれ。































・・・持ってきてるということは

またカバン開けられたということだが、

そんなこと気にしないっ!!

漢(おとこ)の子だもんっ!!

























どれだけ日本人であると主張しても一切聞く耳を持たなかった警官どもに、
今こそっ!!
正義の怒りをぶつけろ!!機動戦士わし。




「これが証拠じゃ見さらせっ!! どうじゃっ!! ビザもあるんじゃい!!




パスッ。




ところがアホ警官どもは
パラパラとモノ珍しそうに栄光のジャパン・パスポートをめくった後、

全然関係ない ブラジルビザ を眺めて、



「フム。確かに。」



とぬかしやがった。












































































































































け・・・警官のくせに!!
わしを逮捕までしやがったくせにっ!!

































自分の国のビザが

どれかもわからんのかいっ!!

































よりにもよって唯一ポルトガル語で書かれているブラジルのビザを・・・
他は全てお前らの母語(スペイン語)で書いてあるというのに!!
マジか? お前らマジか!??




こんな 字も読めないような奴ら に

拘束されて 下級市民扱い を受けていたとは・・・!!!
































漢(おとこ)の怒りメーターが、

すごい勢いで MAXにチャージされていく。




わしがもし1回だけ核の発射ボタンを押していいなら、
照準は迷わずパナマ警察本部に合わせるだろう。

治安維持の尖兵たる警察がこんな ボンクラの集まり だとすれば、

そんな警察 無い方がいい。









































手錠はここで、ようやく完全に外された。
パワーリストを外した時のような、手首が軽くなったような錯覚がするが、
リアルに体重もゲッソリ軽くなっていることだろう。
この夜は、なんだか失うものが多かった。



実は手錠って変なところにもサブのカギ穴があり、
ここをカギの先っぽで 「ツン」 と押してからでないと、ロック解除できないらしい。
得たものといったら、この手錠のどうでもいい豆知識ぐらいだ。



夜明け過ぎにようやく宿に戻ると、

今度は宿泊客総出で 質問攻め に遭い、結局眠れたのは昼過ぎだった。

むさぼるような眠りだった。
「ベッドで眠れることの幸せ」 は知っているつもりだが、
今は普通にヨコになれるだけでも、破格の好条件に思えてくる。



ルーペはその後もツーリスト・ポリス(警察とは別物)を呼んで抗議してくれたり、
アメリカン航空で働く息子さんになぜかこの件を相談したり、
宿を1泊分タダにしてくれたりと、
本当に親身になって、ある意味わし以上に警察に対して怒ってくれた。



実は自分が夜中に呼び出されたことに怒っているだけかもしれないが、
そうだとしても感動的に有難いことだった。
あんな目に遭いはしたが、
ルーペのおかげでわし、かろうじてパナマ自体は嫌いじゃあないのだ。









基本的にはどうでもいい国、パナマ。
ただ、どうしても許せない部分が、あまりに大きい。



出世や地位に興味のないわしが、

パナマを滅ぼせるなら 偉くなってもいい と思うのだ。

漢(おとこ)を正義に目覚めさせた代償は、きっと高くつくことだろう。

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