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ジッチャンの名にかけて。
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B-4 「1分=21万6000円」

マカオ ( 中国)

・・・デカい。

大きさは東京タワーと変わらないハズだが、何もない所にあると、余計にそう見える。
あんまり目立つもんだからすぐ近くだと思ったのに、なかなか着かない。
かれこれ1時間くらい歩きっぱなしだ。


マカオタワーに向かう理由はただ一つ。飛び降りるためだ。

かつて 「金太マカオに着く〜♪」 という歌詞の歌があったが、
それで名前を知った程度で、興味も無かったマカオ。
そんなところに「世界一」ができたと聞いて、そのためだけに日本から来た。

「世界最高所からのバンジージャンプ」

イスラム教徒がメッカ巡礼をするように、漢(おとこ)は一生のうち、一度はバンジーを目指す。



実は、バンジージャンプは初めてではない。
12年も前になるが、日本で跳んだ経験がある。
ただ、アレは20m。せいぜいビルの6階くらいの高さだ。今日はその軽く10倍。
ヤムチャと戦ったくらいで、ピッコロ大魔王の強さが想像できるはずもない。
飛んだときの感覚をイメージできない。今回の相手は、規格外の怪物だ。


タワーに近づくにつれ、無骨なセメントの外壁が、ひと目では収まりきらない程に巨大化する。
見上げれば338メートル。その威容は人間を天界へと誘う道のようであり、
圧倒的な闘気をまとって、生命の進入を拒絶する番人のようにも見えた。

「あそこから飛ぶのか・・・」
塔の先っちょ、一番太いウタマーロな部分。
ジャンプ台とおぼしき場所は、真下から見てもかすむほどの高さだ。
上から見たらどうなるか、想像するだけでワクワクする。さすがは世界一。




チケットを買い、エレベータに乗る。降りたら58階、展望台だ。

ドアが開くと、いきなりどよめきが起こる。
窓の外を、人間が落下していくのが見える。

ここには素晴らしい眺めが自慢のレストランもあるが、
時々こんなものが視界に飛び込んだら、ムードもへったくれもない。
ガラス張りの床まである。女の子が高所恐怖症だったら、フラれるのは確実なデートスポットだ。

受付は61階。さらに3フロアも上から跳ぶのだが、ここまで来るとたいして違いはない。
上っていくと、そこはクラブと見紛うばかりの空間。
ビートの利いたアップテンポな曲が、胃袋の奥までズンズン響いてくる。
設置された巨大モニターには、バンジーに全く無関係なアーティストのPVが流れている。

少しでも恐怖感を和らげようという工夫なのだろう。
歯医者に絵本やおもちゃが置いてあるのと同じ感覚だ。

そこへ、ポロシャツ姿のさわやかな若者が出迎えてくれる。
行ったことないけど、スポーツジムのインストラクターってこんな感じだろうか。


「跳ぶのかい?OKOK。」

ろくに説明もなく、まずはサインを書かされる。
こういう所にありがちな 「万一死んでも文句は言いません」 という内容の誓約書だが、
まるで宅配便のサインみたいにテキトーだ。

跳ぶ側の緊張感とは対照的に、えらく軽いノリ。
まあ全員が超マジ顔で無言だったら誰も跳ばないだろうけど。
明るいを通り越していい加減な感じがするので、いざ申し込む段になって、ちょっと不安になる。



所詮マカオも中国だからな・・・。


中国人の大陸的なおおらかさは、どちらかというと好きだ。
だが、おおらかゆえ、質なんか気にしないのもまた中国。

以前、100円ショップで中国製のコルク抜きを買ったら、
コルクはビクともせず、あのグルグルの部分がビロ〜ンと伸びた。
そういうノリでやられると、こっちも困るワケよ。


オリジナルTシャツに着替えた後、ハーネスを体に装着してもらうのだが、
それもキュキュッと簡単に締めあげただけで終わり。

やっぱり中国だから・・・

鼓動がますます加速していく。
さっきまではワクワクしていたせいだろうが、今、7:3で恐怖がリードしてきた気がする。


何やら台のようなものに乗せられ、
左の手の甲にマジックで数字を書かれる。
数字はどうやら体重のようだ。
女子であろうと容赦なくデカデカと書かれるあたりが、また中国だ。

「中国」 というNGワードが、
寄生虫のように腹の中を這いずり回る。
高さより跳ぶことより、その1点が気がかりで落ち着かない。

床の案内表示が剥がれてるな。
やっぱり中国だから・・・

カメラでわしを撮ってるヤツ、YMOみたいな髪型だな。
やっぱり中国だから・・・


ジャンプ台の向こうで、責任者と思われるインストラクターが最終的な確認を行っている。
彼ら2人だけは、本場NZの人だろうか。白人のようだ。

それを確認したとき、正直なところ 「ホッ」 となった。
わしは決して人種差別主義者ではない。
ただ、「ホッ」 となってしまったんだから仕方がない。



安心したところでサッサと跳ばせて欲しいところだが、わしの前には4人も並んでいる。
安全対策やら何やらで、1人跳ぶのにたっぷり10分はかける。
それはそれで有難いが、じらされると冷静な自分がじわじわと覚醒してくる。
「なんでこんなことを」
と思ったら、このゲームはおしまいなのだ。


ゲートをくぐり、61階の窓の外、デッキ部分に出る。
快晴だが、さすがに上空233メートル。突風が吹きつけ、まっすぐ歩くのも大変だ。
フッ飛ばされ防止でハーネスの背中にもカラビナが付いていて、
手すりに繋がるバンドに、カチャリと固定される。
これでもう引き返すことはできない。ウンコがしたくなっても、もらすしかない。

全員が手すりに繋がれたまま、一つのベンチに座って待機する。
手の甲に数字も書かれているし、さながらその姿はドレイ市場か、屠殺を待つ家畜みたいだ。
大音響のBGMが突風の凄まじさに混ざって、「ドナドナ」 に聞こえてくる。


座りながら今度は、脚を揃えて、縛る。
クッション用に使い古しのバスタオルを巻き
柔道の黒帯みたいなやつで、キュッとやる。
以上。
えええええええええ??

そこにバンジーロープをつなぐための金具を取り付けられるのだが・・・
命を預ける道具が、こんなどこの家庭にもあるような代物でいいのか?

もっとこう、NASAが開発したとか、そんな謳い文句で心を慰めて欲しい。
直前になって、また新たな不安ポイントが浮上してくる。



まあ目の前で次々と仲間が 「処理」 されていくので、大丈夫なんだろう。
待つこと50分、いよいよわしの番だ。
縛られているのでグリグリと足を交互に出しながら、数センチずつ処刑台の先端に進む。

 「先端」 に来たところで、インストラクターは
 「もうちょっと前だな」 と言う。
 膝カックンみたいにされて、さらにグリグリ。

 つま先がはみ出しとるじゃないか!!
 はみ出したつま先が、見えない力で引っ張られる。
 下を見ると吸い込まれそうだ。
 ここまで来ると全身にシビれるほど伝わる。
 確実にあるぜ、重力。
 
 跳ぶのは構わんが、ここに長い間立つ方がキツイ。
 両足揃えてかかとだけで立つ危うさ。
 ピンポン玉が当たっただけで倒れそうだ。

 「OK、じゃあ跳び方を説明するぜ!!」
 
 ・・・なぜ今ここで。
 さっきの50分はなんだったんじゃ。
 
初心者は 「跳ぶ」 よりも 「前に倒れる」 方がよいそうで、
「目線は遠くにして体を傾ける」 のが正解らしい。
その時、両腕が水平に広がっていれば、それなりのフォームに見えるみたいだ。

ふむふむと頷いている間に、すでにカウントダウンは始まっていた。

「3」「2」「1」・・・

客の都合は全くシカトかよ。そういえばさっきの奴は背中を押されてたな。
わしは拳王!! 人の手など借りぬ!!
教わったとおりに太平洋にガンを飛ばし、マカオを押し倒すつもりで前へ傾く。

いただきます!!













ふわっ













瞬間、重力を感じてキムタマが持ち上がる。
絶叫マシンなんかと同じ、人によっては吐き気を催すだろう、あの感覚だ。


「うっ」 となるのはその最初の一瞬のみで、落下2〜3秒後からは
「落ちている」 感覚がなくなり、「飛んでいる」 感じになる。
スカイダイビングでは、重力と下からの空気圧のバランスで
空中に浮かんでいる気分になれるというが、多分それと同じだ。

始めは 「落ちるっ!!」 という一点に気持ちが集中していたが、
後半は首を回して、景色を楽しんむ余裕さえ出始める。

「すげ・・・」
叫びではなく、ちゃんとした言葉だって発せられるのだ。

バンジージャンプは、このぐらい高さがあって初めて面白いのかもしれない。
以前20mを跳んだときは、落ちて次の瞬間には終わっていた。


スピード感、浮遊感、えもいわれぬ飛翔感。
全く新しい感覚にシビれたまま、落下速度は時速200キロに達する。
右手に大海原、左手に近代的なビル群。背後のコンクリートが高速で流れている。


オラ、トリになっただ・・・。
下に群がっているギャラリーの1人をつかんで、上に引きずり上げたら面白いだろう。
すっかり自力で飛んでいるような気分に浸っている。


地上のエアマットがようやく現実的な大きさに見えてきて、ふと考える。
「アレにタッチしちゃうなんてことはない・・・よな・・・?」
ニュージーランドなんかで橋の上から飛ぶアレは、結構頻繁にそーいうことがあるそうだ。
知人も川の水に触ってビビッたと言っていたが、ここは川ではない。大丈・・・


・・・そう考えるよりも数テンポ早く、再び景色が小さくなり始めた。
さすがに万全を期しているのか、マットのはるか手前でバウンド。

30メートルはあるだろう。ワンバンした高さが、既に日本のバンジーを超えている。
ヤムチャに勝ったことを自慢していたのが、今更ながら恥ずかしく思えてきた。


後で聞いたら、ここまでが4〜5秒の出来事らしい。
落下中は脚色ではなく、本当に上に書いたようなことを考えていた。
世に言う脳内麻薬の効果で、時間が長く感じられたのだろう。

事故ったりすると、その瞬間がスローモーションのように脳裏に焼きつくという。
これぞ死に際の集中力ッ!!
恐らくは人生で、最も濃密な5秒間だったに違いない。


丁寧にマットに降ろされると、周りのギャラリーから喝采が起こる。
見知らぬ他人に勇者扱いされている。「バカがいる」 と思ってる人が半分以上だろう。
1人だから黙って跳んで黙って帰ろうと思っていたが、こういうのも悪くない。
ちゃっかりギャラリーに手を振って応える。もちろん、カオは2割増しで男前だ。

世界最高所からのバンジージャンプ。

恐怖も、ためらいも、興奮も、高揚も、安堵も、歓喜も、一瞬にして全てを手に入れ、
たしかに得難い満足感だが、考えてみたら4〜5秒で1187パタカ、18000円か・・・。

1秒につき 3600円、1分なら?1時間なら?・・・
どんなにタチの悪いぼったくりバーでも、
ここまで破壊力のある値はつけないだろう。





マカオは世界遺産の街、であると同時に、
ギャンブルとフーゾク、欲望の街でもある。

「激情波士式・788パタカ」・・・
時間90分だとして、1分=133円。

あれは、「激情」 1624回分の垂直落下。
恐らくは人生で、最も高額な5秒間だったに違いない。

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